とあるクリーム色の壁に緋色の屋根と長方形の三角屋根には鐘が備わっている小さな教会が建っていた。時刻は早朝…まだ人々が眠っているであろう少し肌寒い朝の礼拝堂で一人祈りを捧げる神父は、今日も一日平和で在られますようにとステンドガラスの神の絵に祈る。その無防備な神父の背後から白く長い手が伸びてきて、そのまま神父を引き寄せるようにして抱きしめる。

「けーんや」
「…白石さん。おはようございます」

謙也と呼ばれる神父はその声の主に柔らかい笑みを零し首だけ振り向き相手を見て朝の挨拶をする。後ろにいる男…白石は容姿端麗で、綺麗な銀糸の様な髪と白い肌を晒し黒いタンクトップと黒いズボンを履いている。左手には指から肘に掛けて包帯が巻かれている。白石はニコッと微笑み背中からバサッと二つの広いものを広げる。漆黒に塗られた鳥の羽は人一倍大きく解放し伸び伸びと広げている。
彼、白石は堕天使。かつての天界では位の高かった…神に愛されていた元天使。その天使は堕天使の道を選び、神に見放され天界に落とされ弱っている所を今の謙也に拾われ厄介になっている。謙也は白石の世話をする度…白石も謙也と一つ屋根の下で世話になりながらも互いを好きになり、今では恋仲となっている。今白石は自分の羽を隠す事が出来るため謙也と同じ礼服を身に纏い教会の手伝いをしている。


「二人きりの時は名前呼びやろ?」
「今はいけません。神様の御前ですから」

名字で呼ばれ気にくわないような顔をする白石に謙也は苦笑してステンドガラスに視線をまた戻す。毎朝日課となっている祈りは必ず本来の神父となる。祈りが終わり、次に目覚めて教会に来る人々に懺悔と今日一日の説教を終えるまでは紳士的な態度と敬語は決して崩さない。それでも白石は機嫌悪くなった顔で強く謙也を抱き締める。そろそろ人々が来てしまう時間になると、謙也は白石の手を解こうとするが中々出来ない。

「白石さん…これから人が来てしまわれます。離してください」
「謙也が俺の前で名前呼んで敬語止めたら離したる」
「そんなむちゃくちゃな…」
「人が来てもずっとこのままや」

謙也の首筋に顔を埋めたまま離さない白石に謙也は折れ、諦めた様に小さく溜息を零し頬赤らめて振り向く。

「く、ら…」
「ん?」
「おはよう、さん」

謙也の赤らめた顔に白石は満足そうに微笑み額に口付ける。
良くできました。と囁き腕を解くと広げた羽を仕舞い長椅子に掛けていた礼服の上着に着替えて前を留める。
今度は赤らめてる謙也の頭を白石が撫でて宥めた後いつものように毎朝の日課を実行に移した。


神に愛された天使は堕天使の道を選び神と天界を離れた。

黒く浸食する羽の苦しみに嗚咽を吐き苦しむ様子を見ながら神は問う。

─何故このような愚かな選択を選んだ?─…と。

天使は額に汗を流しながら神を見上げ、苦しみながらも今まで見ない笑顔を浮かべてこう言った。


─一人の神父を愛したからです。私は自分が愚かな選択をしたとは思っていません。…これで、今度は直接逢えるのですから─


神はそのまま黒く染まった堕天使を天界から追放した。
その時の天使の顔は、驚くほど穏やかだったという───。


-END-














春風様より五万打記念にいただきました!素敵な小説、記念のお言葉ありがとうございました!すみませんお気を使わせてしまって><
こんな素敵な小説を頂けるなんて…植木はなんという幸せ者でしょうか(´;ω;`)堕天使白石にときめいたり神父謙也にきゅんきゅんしたり…もうほんとごちそうさまでした!!本当にありがとうございました!




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