「好きな人おる?」

唐突だった。
部活が終わり、他の部員は帰ってしまった部室で俺と白石は二人っきりだった。いや、そこは別にいつもと変わらない。いつも俺は最後まで部室に残って部誌を書いている白石を待っているから。もちろん、その間他愛のない話をしたりはするのだが、恋愛の話を白石から持ちかけたりするということはなかった。俺は別にそれでよかった。むしろそっちの方が返答に困らなかったから。今俺は、たった一言の質問に思わず黙り込んでしまっている。

だって俺は白石が好きだから。

男が男を好きになるなんてあり得ないことだと思っていたが、ユウジや小春の姿を見て、ああこういう恋愛もあるのだな、と理解した。だが、まさか自分がその恋愛をするとは思わなかった。男は好きではなかった。むしろ俺は女の子が大好きだ。でも、それ以上に白石を好きになってしまったのは事実。甘いテノールボイスや、ここまでかというくらい整った顔、誰もが認める努力家、誰にでも優しい性格、無駄のない引き締まった体格、白石の全てに俺は惚れていた。特に、優しく微笑まれたときは心臓が飛び出してしまうのではないかというくらい大きく跳ねる。どこの乙女だと心の中で自嘲することもしばしば。
その事実に目を背けれないほど、白石に惚れ込んでいた。
だが、恋人というのは一度も考えたことはなかった。親友としてのポジションをキープするだけで良かった。これは俺からの一方な恋心で白石がそれに答えれないことなどわかりきったことだから。いずれは終わってしまうであろう恋心はずきずきと悲鳴を上げる心の中に閉まっておいた。それに、白石、と呼べば振り向いてくれるこの距離にいれるだけで俺は充分だった。
だから、いつかこの想いが暴れださないように何重にも蓋を閉めていたのに、白石の手によって無意識にペリペリと剥がされていっている。

「……謙也?」
「えっと…えー…なんやっけ?」
「好きな人おるんかっちゅー話しよったんやけど…」「あーせやったな…せやったせやった」

白石の問いかけに視線をさ迷わせる。謙也、と名前を呼ばれ、あーとかうーんとかはっきりしない返事を返す。好きな人がいないとか、適当に誤魔化せればいいだろうが、白石を騙しきれる気がしない。白石に嘘をつくのはいつもの何倍以上も疲れる。

「おるんや…ないかな?」
「なんで疑問系やねん」
「そういう…白石は、おるん…好きな人」

違和感なく聞けただろうか、最後の方は少し声が小さくなってしまったが多分伝わっている筈だ。ちらりと白石の方に視線を向けると、バチリと視線がかち合った。なぜか見てはいけないものを見てしまったかのような気分になって、思わず目を背けて床に視線を落としてしまった。あんな顔をする白石を見たのは初めてだったから。いつもは優しい白石があんな男らしい顔をするなんて、自分は知らなかった。
沈黙が流れた。一瞬だったのかもしれない、だが自分にはかなり長く感じ取れた。その沈黙を破ったのは白石だった。

「おるよ、そこに」

白石は指をトンとこちらに向けた。その行動や言動が一瞬理解できなくて、ほとんど働いていない脳をフル回転させるが言葉が見つからなくて、助けを求めるように白石を見ると、白石ははにかみながら口を開いた。

「謙也、好き」

その一言に思考は完全に停止した。その変わりボロボロと両目から涙が零れた。それを掬うように包帯の巻かれた左手が水分を吸いとっていく。その仕草一つ一つにまた涙が零れる。

「ず…るっい…」
「ずるないやろ」
「ずるい…バカ…アホまぬけ」
「最後の方悪口やん」
「…好…き」
「おおきに」

初めてのキスは涙の味がした。









end

















弥生様へ捧げます。
暴言を吐きながらもデレて告白ってパターンが大好物です。すみません。大好物です。(大事なことなのでry)
悶々と悩む謙也を想像してたら危うくエクスタシーしそうになりました。危ない危ないエクスタシー。あれ。

弥生様のみお持ち帰り可能です!
リクエストありがとうございました!



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