薄気味悪い孤城に、魔王と呼ばれる男とその部下達が潜んでいた。

「アカンって…ほんまアカンって…なんこれアカンって…」

ガタガタ肩を震わせ体育座りでボソボソと呟いているのは、まさにこの世界の魔王。魔王といえば、大男で角を生やして低い声で余裕そうに大きな椅子に座って中二病よろしくな台詞を吐いている様子を思い浮かべるのではないだろうか。しかし、この魔王は貧弱そうな体をぶるぶると震わせ、余裕という言葉とは真逆に切羽詰まった面持ちで、床に体育座りをしている。中二病どころか弱音まで吐いている。

「謙也さん、はよ準備してください。敵来ますよ」
「せやから、俺は戦えんって!俺痛いの嫌いやねん!!」

謙也と呼ばれた男は涙目になりながら必死に訴えるが、全く聞き入って貰えず漆黒のマントを無言で投げつけられた。

「ブツブツうざいっすわ。はよ着替えてください。あーめんど」
「…光…絶対俺をなめとるやろ」
「なめてませんよ。バカやとは思っとりますけど」
「それをなめとるっちゅーんや!!」

なんでこんな部下を…とぶつくされながら謙也は投げられたマントを装着する。部下の財前光は大きくあくびを吐いてモニターに目をやる。
モニターに映るのは、今まさに魔王を倒すと鼻息を荒くしてこちらに向かって来ている勇者御一行。謙也はこのモニターを見て肩をぶるぶると震わせていたのだ。
謙也は今日が始めての魔王としての任務だった。今までは普通に町医者をしていた彼は、ある日前魔王にして彼の従兄弟である侑士からいきなり呼び出され、唐突にシリアスムードに入ったかと思えば魔王引き継ぎを命じられた。最初こそは謙也も拒んでいたが、従兄弟の「魔王モテるで」の一言に簡単に踊らされてしまい、気づいたら魔王になっていた。しかしよくよく考えてみれば謙也は今まで町医者としての治癒術しか身に付けていない上に戦ったことなど一度もなかった。どうしたものかと、悩んでいる内に勇者御一行が現れたのだ。そして今、ぐずぐず泣きべそをかきながら謙也は勇者御一行を待っていた。

「もうやだ帰りたい…」
「しっかりせんと、すぐ殺られますよ」
「せやかて…」
「ま、少しアドバイスしてあげましょか?」
「奥義とか?」
「いや、勇者御一行が来たときに言う台詞を」
「なんやそれ…」
「とりあえず、この紙読んどいたらええっすわ」

四角折りにされた紙を財前から受け取った瞬間、バアアアン!と盛大な音を立てて扉を開いた。その音にビクリと肩を跳ねらせて驚いたのは、やはり魔王。あたふたとした様子で紙を開き台詞を言う。

「オマエラハココデオシマイダー」

全世界が絶賛できるであろう棒読みを発揮した魔王にポカーンと口を開けている勇者御一行と、腹を抱えて笑っている部下。

「ほんま…いいっ…よったこぶふっ…棒っよみひい…ひっひどい」

ゴホゴホと咳き込みながら盛大に笑い転げるのはやはり財前で、謙也はカアアアと顔を赤くする。怒鳴り付けようと部下の方向を見た瞬間「エクスタシー!!!」と叫び声が聞こえ、ヒッと肩を跳ねらせた。恐る恐る声がした方向を見ると、そこに立っていたのは勇者御一行のリーダー各であろう、そう、勇者であった。

「えっめっちゃかわええやん!魔王めっちゃかわえええええええ!!天使やん!魔王やなくて天使やん!!千歳見てみい!天使やで天使!!ハァハァ…かわええ…」

鼻血をだらだら流しながら勇者は謙也を絶賛した。その様子に謙也はただただ驚いていた。そして、こいつは危ないと危険を察知した。勇者御一行の仲間も冷ややかな眼差しでその様子を見守っていた。

「あ、俺、白石蔵ノ介っゆうて勇者やっとります!!趣味はヨガ、好きなタイプはあなたです!!」
「えっなんか勝手に自己紹介しはじめたんやけど…どないしよこいつ…」

助けを求めて部下を見るが、未だにツボにハマっているらしくヒーヒーと腹を抱えて笑っている。再度、白石蔵ノ介と名乗る勇者を見るとギンギンに目を輝かせてこちらを見ていた。先ほど怯えていた恐怖とはまた違った、貞操の危機に関しての恐怖を覚えた。

「くらりん、はよ戦わんといかんのとちゃう?」
「せや!小春を待たすな、どあほ!!」

きーきーと仲間から野次が飛んでくるが白石は全く聞く耳をもたず、いかにして魔王をオとすか必死に考えていた。

「謙也さん、終わりましたか?」
「お前あとで絶対覚えとけよ。…ってか普通、魔王が戦う前に部下が戦うもんやないんか?」
「アーアーキコエナーイ」
「こら」

財前はわざと聞こえるように大きく舌打ちをし、懐に刺してある剣に手をかけた。その姿からは、先ほどまで笑い転げていたり謙也をからかっていた姿など微塵も見えず、謙也は息を飲んだ。もちろん、勇者御一行も武器に手をやり戦闘体勢に入っていた。

「…ちょいまち。ここは俺と部下くんの一騎討ちにしよや」

しかし、その空気を止めに入ったのは先ほど謙也を口説き落としていた勇者。これまた先ほどとは別人のように真剣な表情をしていた。急展開な流れに着いていけない謙也は、これギャグ小説やないん?と1人アワアワしていた。そんな謙也を尻目に白石は口を開いた。

「なぁ…」
「……」
「部下って…いっつも魔王の隣におるんやろ?」
「まあそうっすね」
「なんそれ羨まし!!!絶対お前倒したるからな!!」

と叫びながら勇者の握る剣に一層力が込められた。そして同時にその場にいた全員がこう思った。

「完全な逆恨みやないっすか」

代弁をしたのは先ほどの緊張感など遠に抜けきった部下だった。しかし、そんなことは鼻から気にしてない勇者は、うおおおと奥義をする直前のような気合いを入れ始めた。なんかヤバいと、部下が呟いたのと同時に勇者は叫んだ。

「うおおお!!包帯レボリューション!!」
「剣関係あらへん!!!!」

ツッコんだのは魔王だった。白石の腕に巻いてある包帯がしゅるしゅると財前に絡み付いていった。ネーミングセンスとか何を革命したかったのかとか、色々ツッコみたい所はあったが、とりあえず部下の安否を確認をした、「ヤラレター」と全然余裕っすわ、と後ろから声が聞こえて来そうな返事が返ってきた。

「あのもう…俺の負けでいいんで、引き取ってくれません?」

おずおずと言った口調で魔王は降参のポーズをとったが、勇者は嫌だ!と駄々をこねた。

「俺ここに永久滞在するんや!!そんで幸せな家庭を築くんや!!」
「ええぇ…」

子供はニ人やな最初は女の子で次は男の子や犬は一匹買って、と鼻息を荒くして一人で妄想を繰り広げる勇者の姿を見ていられなくて、勇者の仲間に目を向けるが巻き込まないでくれと視線を逸らされた。

「とりあえず結婚しよか!なんやったら俺魔王業手伝うし」
「…何いっとんねん…いや、嫌やって!えっちょっなんで近づいてくるん?えっやめっちょっお巡りさあああん!!!!アッー!!!」

その後、魔王白石が世を震撼させるのは遅くはなかった。









GAME OVER












遅くなって申し訳ございません!
水樹様、リクエストありがとうございました!
変態勇者×ヘタレ魔王とのリクエストだったので、すごくノリノリで書かせて頂きました(爆)白石が相変わらずフリーダムですみません!!良かったら貰ってやってください^^
これからもよろしくお願いいたします。







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