扉を開けると保健室独特の薬品の匂いが鼻をつつく。家が病院の為あまり気にはならないが。
「せんせー?」
間延びした声でここの部屋の管理者の名前を呼ぶ。しかし返事は返ってこない。いつもなら椅子に座って、何かしらの雑務をこなしている筈なのだが、今日は珍しく外出中らしい。貼り紙は貼ってなかったから、多分職員室辺りに居るのだろう。
「せっかく会いに来たのに」
授業をサボって。この事がバレたら、また小言を言われるだろうが会いたかったのだから仕方ない。フと視線を先生の机に戻すと椅子に白衣が掛けられてあった。
「忘れてったんやろか…」
掛けてある白衣をソッと指で撫でる。シワひとつないそれが、彼の几帳面さを表している。ただの白衣なのに触れるだけでなぜかドキドキする。
撫でる手で白衣を持ち上げ、そのまま顔に擦り付ける。香ってくるの先生の匂いに思わず頬が緩む。以前、香水は使っていないと言っていたが先生からは凄くいい香りがする。匂いを堪能した後、辺りを一度見回す。
「い…一回くらいええよな…」
誰かに了承を得ている訳でも無いが、こっそりと断りを入れソッと白衣に袖を通す。先程とは違って包み込むような先生の香りに思わず目を細める。先生に抱き込められているような感覚がしてボッと頬が熱くなる。
「せんせ…」
少しボカボカな白衣の袖に顔を埋める。こんなこと本人の前では死んでもできないな、と考えたが、今だけ、先生がいない時間だけ、と小さな幸せを堪能していた。
「蔵ノ介…」
消え入りそうな声で呟いたそれに、恥ずかしくなってまた白衣の袖に顔を埋める。すると、ベッド側からガタンと大きな音が鳴って、思わずビクリと肩を跳ねる。まさか、と思い恐る恐るカーテンが掛けられたベッドに近づき中を覗くと、こんもりと膨れ上がった布団が目に入る。中に人が居るのは一目瞭然で布団に手を掛けるとビクリと布団ごと跳ねた。
(あーやってもうた…。)
後悔しても、もう遅く呆然とした面持ちで布団を見つめた。今さら、なーんちゃってー☆なんて言える空気でもないし、服を脱ぐタイミングを完全に失ってしまった。
「せんせ…出てきて」
もぞもぞと布団の中から顔を真っ赤にした先生が顔を出した。どこか落ち着きのない模様で左右に視線を泳がせていた。
「…あ、あの覗きとかしとらん、ヨ。寝よっただけ…やから。うん…ぐっすり」
あからさまな嘘に思わず頭を抱えてしまう。
「居ったんやったら返事してくれたら良かったのに」
「…え、あ、いやタイミング見失ったちゅーか、もっと見た…いやなんもない」
なぜか先生の方が申し訳無さそうにしている姿を見ているうちに、先程までの追い込まれたような感覚は消え失せていた。
「せんせ、これ返す」
「え、あ、いやもうちょい着といてもええんとちゃう?」
「いや、でもこれ着んといかんやろ?」
「俺はええから、な?」
普段は大人っぽい先生がたまに魅せるこの子供っぽい表情が俺は好きだ。だから、逆らうことなど出来ずに脱ぎかけた白衣をまた着衣する。
「謙也、こっちおいで」
「…?」
先生がベッドに座ったままぽんぽんと膝上を叩く、言われるがまま先生の膝の上に腰を降ろそうとすると、ギュウと腰回りに先生の手が巻き付いてくる。お腹には先生の顔が擦り付けられる。それがくすぐったくて思わず身を捩る。
「せんせ…くすぐったい」
「ちょっとだけ」
甘えるような先生の仕草が可愛らしくて思わず頬が緩む。触り心地のいい髪をするりと撫でると、手首にチュッとキスを落とされる。
「謙也、いっぱい匂いつけといてな」
「なんで?」
「秘密」
先生はそう言ってまたぎゅうぎゅうと抱き締めてきた。なんでかは結局分からなかったが、先生の匂いを直に堪能していると、そんなことはどうでも良くなった。
end
シロタ様へ捧げます!
謙也には"先生"って言わせるよりも"せんせ"って言わせたい派です。え?どうでもいい?知ってる知ってる(^ω^)
ヘタレな先生と無意識誘い受けな生徒をイメージしました。(え、どんな?)
きっと白石先生はこの後okzにしますよ!よっ変態!
リクエストありがとうございました!
シロタ様のみお持ち帰り可能です。