ある日のことだった。白石蔵ノ介は、いつも通り愛の追尾という名のストーカーを行っていた。被害者は、忍足謙也。
「けんやー、けんやー、未来の旦那様が向かえに来たでー」
ピンポーンと陽気にチャイムを鳴らすが、家の中から人は出てこない。白石は、おかしいと感じた。
いつも、この時間はお義母さまとお義父さまはもう出勤して、しっかり者の義弟はもう登校しているから、遅刻ギリギリに登校する謙也は最後まで家に1人でいるはずなのに。まさか自分をほっていくとは考えられない。
因みに、なぜ白石がここまで謙也の家の状況を把握しているのかは、日頃の愛の追尾の成果である。
白石は考えた、もしかしたらこれは誘っているのかもしれない。きっと今頃、謙也はベッドの上で俺が来るのを待っているんだ。
どこからそんな考えが飛んで来たのかは知らないが、白石はきっと世界一であろう妄想力を今日も全力でフル回転させているのだろう。無駄がない。
「お邪魔しまーす」
妄想に身を任せた白石は、鼻歌と鼻血混じりで楽しげに謙也の部屋へと足を運んだ。
「けーんや☆」
謙也の部屋のドアを開けると、ベッドの上にこんもりと膨れ上がった布団があった。白石は、自分の妄想はドンピシャだったのだと、布団に向かって飛びかかった。
「謙也は恥ずかしがりやさんやなー顔見せて?」
意気揚々に布団を剥ぎ取ると、そこにいた人物に思わず目が点になる。
「にいちゃん…だれ…?」
フルプルと体を震わせ、目に涙を溜めた小さな少年がこちらを見た。
布団の中に天使がいた。と白石は今にも飛び出しそうな興奮を全力で抑えた。なんせ、相手は子供だ。謙也似とは言え子供だ。そう、謙也似…謙也似?
「俺の子か!!」
どうやったらその答えに辿り着いたのかは、一生理解できないだろうが、白石は満足げに笑っていた。
「謙也いつのまに産んだんやろ。まぁ、俺らの愛の力やったら子供なんてちょちょいのちょいっと作れるわな」
「けんや…?おれのなまえやで」
小さな少年は、忍足謙也は自分だと主張した。
白石は、へ?と間の抜けた声を漏らした。