朝、起きると、僕はリビングに寝ていた。いや、気絶していた。顔や手足が痛い。腫れているかもしれない。辺りを見回すが、母さんの姿は見えなかった。
母さん、父さん、どこにいるの?
僕は、やっぱり一人なの?
堪え切れなくなった涙が、ボロボロと落ちる。誰もいないリビングに僕の泣き声だけがこだまする。昨日、母さんから吐き捨てられた残酷な言葉は気持ち悪いほど頭の中にくっきりと残っている。父さんが僕の本当の父さんでないこと、僕は本当は生まれてきてはいけなかったこと、誰からも愛されてなかったこと。押し込むのには衝撃が強すぎて、涙となって流れ落ちる。
「父さん…父さん…」
優しく笑いかけて、謙也って呼んで、僕を助けて、父さん。
酷い扱いを受けていたと理解しても、僕には父さんしかもういないんだ。
気づいたら、僕は外をうろうろと彷徨っていた。人ごみの中を歩いていると、完全に帰り道も行き先も分からなくなった。辺りを見回しても、人しかいなくて思わず足が竦む。普段、外は危ないからと母さんか父さんと一緒に出かけていた為、外がこんなにも怖いところだとは思わなかった。
「母さん…父さん…どこ、どこにいるの…?」
返事が返ってくるはずもないのに、ずっと呼び続けた。すると、勢いよくグイっと腕を引っ張られた。いきなりのことに頭がついていかず、とりあえず本能的に逃げなければと思って足を動かすが、大人の人に力で勝てる筈はなくてあっけなく捕まる。
恐る恐る、相手の顔を伺うと、そこには僕が一番会いたくない人が心配そうな顔つきで立っていた。
「けんたくんやろ?どないしたんその傷!?」
違う。違う。違う。
「違う!僕は謙也だ!!!」
言葉を発してからハッとしたがもう遅く、あの謙也は目を丸くして驚いていた。だがすぐに辛そうに眉を潜めて僕を抱き上げた。大嫌いな人なのに、抱き上げられた時の暖かさに思わず泣きそうになった。
「とりあえず、俺んちにおいで…手当せんと」
ごめんなさい、父さん。