母さんが、僕に話しかけてくれなくなった。
僕が話しかけたら、答えてくれるけど。母さんから話しかけてくれる確率は以前のいつも父さんが居たころに比べて、格段と減った。
それから、温厚な母さんが今は僕に対して声を荒げて怒るようになった。何をそんなに怒ってるの、僕は何もしてないよ。

ある日、夜中にリビングから母さんの泣き声が聞こえてきた。心配になってリビングを覗くと、机にうつ伏せて泣いてる母さんの姿を見た。辺りには、お酒の缶がばら撒かれていた。

「母さん…」
「けんや…」
「母さんどこか痛いの?」

母さんに近寄ると、パシンと大きな音が鳴った。僕が平手で殴られたと気づいたのは、床にこけた時。母さんを見るとこちらを見下ろすように立っていた。初めて見る母さんの様子に戸惑って、うまく呼吸ができなかった。

「…なんであの人がいなくなっちゃうの!??なんでよ!!ねえ!答えなさいよ!!!」

胸倉を掴まれて引き寄せられる。近くで見る母さんの顔の形相は凄まじかった。僕は、母さんの悲痛な叫びに答えることができなくて、ただただ謝ることしかできなかった。
母さんはそれでも許してくれなくて、一向に手を緩めようとはしなかった。

「私、あんたの名前大っ嫌いなの。バカみたいよね…私が知らないと思ってんのかしら、あの人。あんたの名前はね…あの人の好きな人の名前なの。いつまでも未練たらしく…まさか子供につけるとは思わなかったわ。あんたは、代理としか見られてないの!」

知ってる。知ってるよ母さん。全部知ってる。名前のことも、好きな人も、何もかも。父さんは誰も見てないし、誰も見ようとしてないよ。母さんも、僕も、父さんの眼中には入っていないんだよ。あの謙也しか写ってないんだよ。
母さんの震える手が僕の襟首を掴んだまま、動かない。母さん、と声をかけたら、ギロリと睨みつけられた。もう、昔の母の面影など残ってはいなかった。

「使えない…なんの為に生んだと思ってんのよ。」
「かあ…さん?」


「あんたなんか、生まなきゃよかった…」


助けてよ、父さん。



















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