テラスに出るとヒュウッと風吹いた。堅苦しいスーツを着込んでいるお陰で寒いとは思わなかった。周りを見渡すと、テラスには俺ら意外誰も居なかった。

「久しぶりやな」

謙也は、楽しげに話した。久々に聞く謙也の声は相変わらず心地のいいものだった。

「ほんま、お前は酷いな白石。俺ら親友やったんやし、結婚式くらい呼んでくれても良かったんとちゃうか」
「よう言うわ、自分が振った癖に。しかも音信不通になっとるわ、黙って引っ越すわ、ほんまに酷いのはどっちやねん」

少しトゲのある口調で返すと、謙也は押し黙った。こういうところも昔と変わらない。
謙也と俺は、つきあっていた。もう何年も前の話になるが。俺にとったらそれが初恋でもあり最後の恋でもあった。だが、俺は未練たらしくも謙也をずっと思い続けた。結婚をしようと、子供ができようと、ただただ謙也を見続けた。
謙也にフラれたのは高校に入る前。お互い別の高校に行くから、と別れを切り出された。承諾する気など更々無かったが、謙也とは連絡が取れなくなってしまい、そのまま自然消滅となってしまった。何枚も書いた手紙はいつも戻ってきた。謙也は、もう大阪に居なかったから。
気づいたら、俺は家庭まで持っていた。

「ほんま、酷いのはどっちや…」
「すまん…」
「ま、謝ることやないんやけどな」
「なんやそれ」

俺も謝らなアカンことあるしな、ボソリと呟いたそれを謙也は聞き逃したらしく、え?と返答をした。なんもない、と笑ってやると、ふーんと半信半疑の答えが返される。

「謙也は彼女できた?」
「仕事が彼女やな」
「さぶっ」
「アホ、ここは褒めるとこやろ。この不景気に立ち向かう正義の医者、忍足謙也やで」
「なんやそれ」
「笑うなや」

変わらない、変わってない。良かった、謙也は謙也のままで居てくれて。変わらない友を見て思わず笑みが綻ぶ。謙也はやはり謙也だけだから。
柵に手を置く謙也の手にソッと自らの手を重ねる。謙也はその様子を一瞥したが、特に振り払う様子も無かった。

「謙也」
「んー?」
「好き」
「……」
「……」
「…アホか」
「本気なんやけどな」

謙也、もう一度名前を呼ぶとピクリと肩が動いた。


「好き」


ごめん、謙也







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