あのパーティーの日から、父さんは頻繁に家を空けるようになった。母さんは、仕事が忙しいのだと言ったけれど、いつもどんなに夜遅くなっても家に帰って来て僕が寝ている部屋を一回覗くんだ。なのに、今は見てくれない。
それから、あのパーティーの日以来、父さんは僕のことを「けん」と呼び始めた。
けん、行ってきます。
けん、ただいま。
どれも、違和感があった。
ある日、父さんが必ず帰ってこないであろう月曜日を狙って、僕は父さんの書斎へ潜り込んだ。いけないことだとは分かっていたけど、足が止まらなかったんだ。
父さんの書斎はきっちり整理整頓されていて、あまり物が見当たらなかった。
部屋を一回りしたけど、何も怪しい物は見つからなかった。父さんの机に近づいたときだった、机の下に、四角い箱があるのを見つけた。すぐに、それを中から引きずり出した。かなりの重量のあるそれを、開けてみると紙がたくさん出てきた。
難しい文字が連なった紙は、かなり古くてだいぶ黄ばんでいた。紙には、僕の名前が何度も何度も出てきていた。「謙也を」「謙也が」「謙也に」間違いなく父さんの字だった。僕のことじゃなくて、あの人のこと。
何枚も出てくる手紙を除けると、奥から写真が出てきた。そこに写るのは、明るく笑う父と、あの謙也。若い父さんはあの人に抱きついたり、じゃれあったりしていて、今の優しくて落ち着いた父からは考えられないものだった。ツーショットや色んな人が写った写真が終わると、次に出てきたのはあの人の写真。どれも、先ほどのように楽しそうに笑っているものではなく、全部カメラとは違う方向を見ていたり、後ろ姿や、眠る姿。どれも、カメラに気を寄越していないあの謙也の写真。父さんは、いつもあの謙也のことを見ていたんだ。離れてからもずっと。
父さん、父さん、僕も謙也だよ。
僕も見てよ。