※大学生くらい



友人である白石とルームシェアを初めて早半年。最近、少し困ったことがあります。



「………なんでまたおんの」



携帯アラームの音に起こされて目蓋をうっすら開けると何故か身動きができなくて、一瞬金縛りかと焦ったものの目の前に広がる色素の薄い髪を見た時瞬時に状況が理解できた。そして次に自らの口から漏れたのは欠伸ではなく深い深いため息だった。

うちの胸に顔を埋め抱き着くようにして絡み付いている白石は未だ寝ているらしく、規則的な寝息が小さく聞こえる。どうりで熱いと思ったら、こんなのが貼り付いとったんか。そりゃ寝苦しいはずやわ。


うちが最近困っていること、それは白石が自分の部屋で寝ないことだ。ルームシェアなのでリビングやらダイニングやらバスルームは兼用しているけれど当然個々に部屋はあって、白石のベッドは白石の部屋に置いてあるのだ。それなのに、夜は「おやすみー」と言ってのそのそと自室に入っていくくせに何故か目が覚めると彼女はいつもこのベッドで一緒に寝ている。なんでやろ、なんで毎回毎回おるんやろ。



「しらいしー…」

「…ん」

「…起ーきーろおー」

「………ん、う」



手は完全に拘束されていて使えないので、さらりと垂れる髪の隙間から覗く耳に向かって声をかけた。すると彼女は少しだけ身を捩って唸り、ゆっくりと顔をあげる。



「おはようさん」

「…おはよう」



未だ意識が覚醒していないのかぼんやりとうちの顔を眺める白石はあまりにも艶っぽくて、ついつい見惚れてしまった。白石はとびきり美人だ。肌は白くて傷やにきびなんて全くないし、目も切れ長で二重で睫毛も黒々としていて長いし、何よりも半開きの形の良い唇が色っぽくて堪らない。同じ女なのにどうしてここまで違うのか、一体何度考えたことだろう。もし自分が男だったならこんな美人が目の前にいたら間違いなく惚れていただろうなんてことも思ったりもする。

……って、そんなことは置いといて、



「なんでまたここで寝てんねん」

「やってけんやぬくいんやもん」

「もう春やからぬくい通り越して熱いやろ」

「ううん、そんなことない」

「…いや、うちが熱いんやけど」



ふふふと穏やかに笑った白石はうちの体に回した腕にさらにぎゅうっと力を込めて、再度胸に顔を擦り付けてくる。そして極めつけには細く長い足までうちの足に絡ませてきたので本格的に暑苦しくなってきた。春先なので布団自体は薄くしたものの、寝起きとなると布団内に体温がこもっているためやっぱりどうしても暑いのだ。



「あーつーい!」

「んー、けんやのおっぱい気持ちえー」

「ひゃはっ、ば、ばか、くすぐった…っ」

「なあ、舐めてもええ?」

「あ、あかんに決まっとるやろ!」



小首を傾げてパジャマの裾から手を差し込もうとしてくる白石をぴしゃりと叱ると彼女は渋々手を引っ込める。朝から何を言うてんねんこいつは。まあスキンシップが激しいんはいつものことやからそこまで気にならへんけど。っちゅーか今日普通に学校ある日やんか、そろそろ起きんとやばいんちゃうの。朝ご飯も作らなあかんし着替えも化粧もせな。うわー、間に合うんかな?



「白石、そろそろ起きんとほんまやばいって」

「えええー…いややあ」

「嫌やちゃうやん。ほら、離れて」

「嫌や、離れたない」

「…はよせな遅刻するやんかー」

「ええやん、今日は休んでこのまま寝とろ?」

「あーかーんー」

「うええ…」



むすっと唇を尖らせて下からうちを見る白石はまるで駄々っ子のようだ。普段はこんな風じゃなくてもっとしっかりしているのだけれどうちと二人きりになると途端にこうなってしまう。まあ別に甘えられるのは嫌ではないけれど、残念ながら白石の我が儘を聞き入れて授業を休むほどうちは甘くない。



「ほら、朝ご飯作ったるで離し」

「……ほないっこだけお願い聞いて?」

「なに?」

「ちゅーしてや」

「………はい、却下」

「ええ!なんでなん?なんで即答?」

「いやいやいや、普通に却下やろ」

「そこは承諾してや!」



もう本当にこいつは。胸を舐めたいだのキスをしろだの一体何を言っているのだ。「そういうことはうちとやなくてどっかイケメンの男捕まえてやればええやん」と言えば白石は真顔で「謙也とやなきゃ嫌や」とか言ってきた。なんでうちとじゃなきゃ嫌なんだろうか。白石くらいの美人なら待っていてもすぐにうようよと男が寄ってくるだろうに。実際中学の頃も高校の頃も彼女は絶えず誰彼から好意を抱かれていた気がする。



「はよう、ちゅーして」

「嫌やわあ」

「ほらほら、はよしんと遅刻やで!」

「………はあ、」



これはしないと離してもらえそうにない。そう感じてうちは本日二度目となるため息を肺の底から盛大に吐き出した。うちが折れたことを察した白石は小さな声で「やった」と呟いていたので、またため息が出そうになる。

目を瞑り顔を上げる彼女に、うちは仕方なく唇を落とした。



「………なんでや」

「え?」

「なんで口やのうてほっぺやねん!」

「ええー…別にええやんか。ちゅーはちゅーやろ」

「全然ちゃう!」



そうは言うてもな、白石。うちかて多かれ少なかれ羞恥心っちゅうもんを持っとるんやで?いきなりキスしろ言われて口にできるほどの勇気は生憎持ち合わせとらへんねん。そもそもほっぺにするだけでもない勇気めっちゃ振り絞ったんやで?それだけで勘弁してほしいもんやわあ。

わあわあと騒ぐ白石を目の前にうちは顔が赤くならないように平常心を保つので精一杯で。本当は恥ずかしくてちょっとだけ頬が熱いのだ。



「口にちゅーがええ!んでそのままべろちゅーも!」

「なんか要求増えたんやけど…」

「ええやんかー!けんやしてー!」

「…っ、あほう」

「へ?」

「そんなん恥ずかしくてできるわけないやろっ」



声を張り上げてそう言い捨て、うちは白石の腕の中で無理矢理身を捩りベッドから抜け出した。そしてそのまま火照る頬を手で覆いながら自室を後にする。あーあ、白石のせいで今絶対顔真っ赤や、寝覚め最悪。


その後、キッチンで炒り卵を作っているときに部屋から勢い良く飛び出してきた白石に抱き着かれ「謙也可愛い可愛い可愛い!」と連呼されたのは言うまでもない。








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和波さんありがとうございます!
いつも百合談義にお付き合いくださってありがとうございます!やっぱり♀良いですねハァハァ…!百合の輪を一緒に広げていきましょうねwこれからもよろしくお願いします!





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