それから、何もないまま2週間が経っていた。
勿論、謙也への態度も今まで通りや。
っていうか、相手から何のアクションもないのに、俺から何かできる訳もないし。
なんて考えていたのに、ここ2、3日謙也の様子がおかしい。
また俺を見て顔を赤らめたりとかちゃうで。
むしろ逆や逆。ここのところずっと俺に対して好き好き光線送ってたのに、それがなくなった。
今までは誰が見ても分かりやすいくらい、俺に対して好きっていうのが出てたのに、それが全くない。
手が触れあっても慌てて引っ込めたりせぇへんし、部活中に目があっても逸らすことなく、むしろ笑いかけてくる。
俺を見つめてくることもなくなった。
俺が告白されても笑顔で見送ってるし、傷付いた顔も、泣きそうな顔も見せない。
千歳や財前とふざけあってたら、自分も一緒に輪の中に入ってふざけあう。
――謙也の様子がおかしい。
いや、これが普通やって言ったら普通や。むしろ俺に恋してた今までの方がおかしいと言えばおかしい。
俺も別に付き合う気もなかったはずや。
…せやのに、何でや。
何でこんなにイライラすんねん。
謙也が俺じゃない誰かに笑いかけてるだけで腹が立つ。クラスの奴等とふざけて肩組んでるだけでイライラする。
しかも、
「俺も彼女作ろうかな」
ってなんでやねん!お前が好きなんは俺とちゃうんか!!
お前は好きでもないやつと付き合うつもりなんか。
謙也だけじゃなく、イライラしてる自分に対してもイライラする。何でこんなにイライラすんねん。
良かったやないか。謙也が前みたいになって良かったやんか。
付き合うつもりはなかった。
なら今の方が、好都合なんとちゃうんか。
最近じゃ謙也を見てるだけで問い詰めてしまいそうで、今までは一緒に帰っていたのに、一人で帰るようになった。
今日も用事があると嘘をついて先に帰ったのだが、途中で忘れ物をしたことに気付く。
明日の授業の提出物だ。今日持って帰ってやらないと、間に合わない。
仕方なく部室へと取りに戻った。
ドアを開けようとすると、中から話し声が聞こえてくる。思わず、開けようとした手が止まった。 財前と、……謙也だ。
どうしていいか分からず、扉の前で立ち竦んだ。
「謙也さん、部長に告白でもしました?」
「え…、な、何で…」
「いや、最近一緒に帰ってないし。前まであんなに好きって分かりやすかったのに、ここんとこ全然やし」
でもよくやった財前。俺も知りたかったことや。
「だから振られでもしたんかなって」
あほかっ、振るどころか、まだ告白もされてへんわ!
「……小春やユウジにも言われてん。俺は見てて分かりやすいって。…そう言われた時、めちゃくちゃ怖くなった。白石にも知られてて、軽蔑されてたらどうしようって」
ここからでは二人の声しか聞こえず、どんな表情で話しているか分からない。
「…元から付き合えるなんて思ってない。側におれるだけでいぃんや。でも、バレて気持ち悪いって思われてたら?それぐらいやったら、気持ち封じ込めて、何でもないふりせな。バレんようにせな…側にもおれんくなる…」
……謙也の声は涙声だった。
「…謙也さん、俺は?俺なら気持ち悪いなんて思えへん。悲しませるようなこともせぇへん。ずっと謙也さんの側にいてる。謙也さんが好きや」
「…財前…、……俺は」
「ちょっと待った!!」
気付いたら勝手に手が扉を開けていた。そこでは、椅子に座った謙也を抱き締めるようにしている財前がいる。
カッと頭に血が上り、慌てて二人を引き離し、謙也を抱き寄せる。
「誰が財前なんかにやるかっ、謙也は俺のや!」
頭で考える前に、勝手に口から言葉が出ていく。自分の言葉に驚くが、今までのイライラが消えてスッキリする。
そうか、俺は謙也が好きなのか。
だから、好意を寄せられても嫌じゃなかったし、なくなればイライラした。
改めて謙也に向き直る。
「謙也が好きや。愛してる。…だから俺と付き合ってほしい。財前にも誰にもやらん。謙也は俺のや」
呆然と俺を見ていた謙也の綺麗な瞳から、ぽろぽろと涙が零れ落ちていく。
「……き、…好き。好きや、白石が好きや」
今まで告白されたことはたくさんあったけれど、こんなに嬉しいものだと思わなかった。そのまま謙也をギュッと抱き締める。
財前が鞄を持って部室を出ていくのが見えた。
悪いな、財前。
でもな、何があってもこいつだけは譲られへんねん。
「謙也、好きや…好き…愛してる」
気付かなくてごめん。遠回りしてごめん。その分、たくさん愛を囁くから。
だから、君のその気持ちが向けられるのは、これから先も俺一人だけにしてください。
end
湖都さんありがとうございました!サイト開設おめでとうございます^∀^!
すごいマイナーチックなリクエストをこんなに素敵に書き上げてくださるとは…ありがとうございました!
これからもよろしくお願いします!