目を覚ましたのは、見知らぬ部屋だった。視線だけをさ迷わすと、無駄な家具は置いていないベーシックな部屋だった。どこかで見たことがあるな、と思ったが柔らかい枕や肌触りのいい布団や人肌に抱かれたような暖かさが心地よくて、もう一度眠りに入りそうになる。
(……人肌に抱かれたような暖かさ?)
嫌な予感が頭をよぎり、まさかと思い隣を見ると──
「おはようさん」
「……な!?」
気持ちの良い程、綺麗に笑う白石と目が合った。良くみると裸で、まさかと思い自分を見ると上どころか下も履いていなかった。
ちょっと待て。俺は、やらかしたのか。あの後、やらかしてしまったのか。だらだらと嫌な汗が流れる。
昨日の記憶は、健二郎と話した所までしかない。何をしたんだ俺は。ズキズキと痛む頭に思わず眉をしかめる。
「水、持ってこよか?話はそれからや」
白石がポンポンと頭を撫でて、近くにあるズボンを履いて立ち上がった。相変わらず、引き締まった体をしているな、と場違いだとは分かっていながらも思わず見とれてしまった。
一時してから、白石がミネラルウォーターの入ったペットボトルとコップを持って帰ってきた。持ってきたミネラルウォーターのメーカーは中学の頃から見覚えがあるものだった。
「はい、」
おおきに、と体を起き上がらそうとしたとき、ずきりと腰に鈍痛が走った。中学の頃に何度も感じた痛み。これが、全ての決定打となった。
「俺、ヤっ…」
「ヤったで、俺と」
見据えていたように、白石は答えをキッパリと言い放った。沸き上がってきたのは、罪悪感と後悔。できることなら昨日の自分を殺してやりたい。
「謙也、俺のことまだ好きやろ」
「…まさ、か」
「自分昨日のずっと俺の名前呼びよったで、あと」
好きって。
一気にサアアアと身体中の血液が引いていくのがわかった。白石の顔を見ると、どこか嬉しそうに話していて思わず目を背けた。すると、するりと頭を優しく撫でられる。
「な、謙也。昨日、本当に偶然あそこの居酒屋で出会ったと思っとる?」
「…へ?」
「6年も会わんかったのに、あんな偶然出会うことってあると思う?」
「な、に言うとんねん。昨日はユウジが小春にフラれて…」
「ほんまは嘘やったら?ユウジは多分、今頃小春とどっかデート行っとんやないかな」
「…なんでやねん」
「昨日のあれが全部、俺の考えたシナリオやったら?」
「……?」
意味がわからない。なんで、わざわざ白石がシナリオを考えて昨日偶然を装ってまでして会わなければいけないのか。健二郎もユウジも俺を騙していたのか?
未だに理解をしていないことを読み取ったのか否か白石は口を開いた。
「もし俺が普通に飲みに誘っても来んやろ?」
「……」
「ほら、図星やん」
確かに、ああいう状況で無かったら俺は、大学が忙しいと言って断っていただろう。白石と飲むなど、気まずくて無理だ。
白石は苦笑を浮かべて溜め息をついた。すると髪を撫でていた手がギュウッと俺の右手を包み込むように握った。その行為に思わず心臓が高鳴る。流れるように白石の顔を見ると、真剣な眼差しでこちらを見ていた。
「謙也、好き」
「……っ」
「6年間ずっと好きやった」
「……な、に言うとんねん…」
声は震える、恐怖とか緊張ではなく、嬉しくて泣き出してしまいそうになるこの気持ちを抑えるため。白石から出てくる言葉は、6年間後悔と未練に縛り続けられていた俺が最も求めていたものだった。目線を合わせられ、優しく微笑まれる。
「また、付き合ってください」
瞬間、6年間の全ての想いが決壊したように、涙となって落ちてゆく。6年間、隣に白石が居なくて寂しかった。声を聞きたくて辛かった。名前を呼んで欲しくて泣いたこともある。6年間、白石のことしか考えていなかった。
答えなど、一つしか無かった。
「は、い…」
消え入りそうな声だったが、白石はちゃんと聞き取ってくれていて、綺麗な顔で笑ってくれた。
「愛しとる、謙也」
end
水樹さま、22222ありがとうございました!遅くなってしまって申し訳ありませんでした><
大人蔵謙…このような感じでよろしかったでしょうか(ガクガク)
もし何かありましたらお気軽にお申し付けください!
リクエストありがとうございました。