旧友に出会った。
偶然だった。俺の間違いで無かったら6年は会ってない。
その日は小春にフラれたユウジを励ますために酒屋に行った。するとカウンター座る2人が目に入った、まさかと思い遠目から見ているとユウジが、あ、と声を上げた。その声に気づいた2人がこちらを見た。その2人に俺は目を丸くした。
「白石!!健二郎!久しぶりやな〜!!」
「ユウジに謙也か!元気にしとったか!」
健二郎が嬉しそうにこちらに話掛けてきた。いち早く気づいたユウジは俺のことなんてほって2人の元へと走りよった。ちょうど2人が座るカウンター席の両隣に1ずつ席が開いており、ユウジは白石の隣へと座った。
俺は早く早くとユウジに急かされて、どこか気の進まない足取りで健二郎の隣に座った。
2人に会えたことは嬉しかったし、かなり驚いた。だが、1人、そうまだ一言も会話をしていない白石とは少し気まずい。
6年前に、俺と白石は付き合っていた。所謂、恋人というやつだ。当時は男同士だとかそんなのは関係なくて、ただただ2人で居るのが楽しくて仕方なかった。謙也、と俺の名を呼ぶ声は今も廃ることなく記憶の中に濃く残っている。しかし、中学三年のときお互い志望する高校が違って、俺たちは別れた。別れを切り出したのは、俺だった。嫌いになった訳ではなかった、むしろ好きだったからこそ、遠く離れる俺のことなど忘れて白石には新しい彼女を作って欲しいと思ったのだ。そんなのは綺麗事だ。本当は怖かった。このまま一緒に居られる時間が増えて、白石に想い人ができて、別れを切り出されるのが怖かったから。それなら、一層のこと傷つく前に別れを切り出してしまえば、と。俺には、誇れるものはなかった。白石のように顔も良くなければ、口調も荒くて、短気だ。それに、男だ。いつかは、この関係には別れが来るだろうとは分かっていた。2年の付き合いならまだ傷は浅いと、今思えばバカみたいな考えを持っていた。卒業から数日前に別れを切り出した。だが白石は中々首を縦には振ってくれなかった。
何がいかんかった?直すから、腹がたつことがあったんやったら謝るから、別れるなんて言わんといてや。
あの泣きそうな顔は今でも頭から離れない。白石の言葉は嬉しかった、だが同時に苦しかった。こんなことを言われたら未練が残ってしまう。だから、俺はとっさに嘘をついた。好きな人が出来た、と。白石は、その言葉を聞いて、わかった、と引き下がった。本気で好きになった人など白石以外いないのに。
別れた後の後悔と罪悪感はかなりのものだった。別れてからも、ずっと白石を想い続けて、忘れようとしても忘れれず、高校生活は結局過去の未練を断ち切れず誰とも付き合うことなく終わった。大学に入った今は、医学の勉強でいっぱいいっぱいになっている為彼女を作る暇は無いが、女々しいと思いながらも白石のことはいつも片隅に置いていた。
だから、今の状況には驚きも隠せないし、かなり気まずい。白石にとったらもう俺は過去の人物になっているだろうか。でも、一番はそれがいい。それだったら、自分が選択した答えは間違っていなかったんだ。
「謙也、」
「っな、なん!?」
健二郎に名前を呼ばれ大袈裟に反応を返してしまう。怪しまれていないだろうかと、健二郎の隣に座る白石をチラリと覗くがユウジと会話に花を咲かせているようで、気づいていないようだった。こっそり安堵の息を吐いた。
「あ、いやボーとしとったから」
「いや…ちょいこの頃寝とらんから…ボーとして」
「大学大変?」
「大変やなー…でも楽しいで。あと少しで夢やった医者になれると思うと…ちゅーてもまだ何年後の話なんやけどな」
「そっか、ほな謙也は結構充実しとんやな」
「健二郎は?」
「俺は、大変やなー…コキ使われるし」
「あんま、昔と変わらんな」
言ってくれるな、と健二郎は苦笑いを浮かべた。健二郎は高校を抜けてから就職したのだと、2年程前にユウジから聞いたことがある。しかし、白石が今どこで何をしているかは全く知らない。多分、白石もどこかの大学に通っているのだろうとは思う。聞きたくても聞き出せない歯がゆさに眉を潜める。
「謙也、酒飲まんの?」
「え、飲む!」
今日は、飲んで全て忘れてしまおう。