最初は綺麗な人だと思った。男だったが、金髪の髪に少しつり目上がった大きな瞳。どれも綺麗だった。
小さな飲食店のボックス席に1人で座る男性は黙々と何か作業をしていた。少し離れた所のカウンター席に座った俺には、手元までは見えず何をしているのだろうかと、凝視していた。すると、ちょうど彼と位置が重なるように座った、男が眉間に皺寄せてこちらを見た。
「俺とあっちどっち見とんねん。言っとくけど小春以外興味ないで」
「あっちや。生憎、俺もあんたには興味ないわ」
男はフンッと鼻を鳴らし、朝食に手をつけた。
金髪の青年に目を向けるとできたのかどうかは分からないが、一息ついて顔を上げた。
少し席を移動すると、彼が手元で一生懸命していたことが分かった。ワッフルで家を作る姿に、思わずクスリと笑ってしまい、最後の一欠片が余ったようで困ったようにワッフルの家の周りをみる。
俺はテーブルに設置してある爪楊枝を1つ持って、彼の席へと近づく。
「これ、こうしたらええんとちゃうかな?」
「あ、ほんまや…ってあんた誰やねん」
出来るだけ怪しまれないようにニコリと笑って、白石蔵ノ介です、と言うと彼も軽く微笑んで、忍足謙也や、と左手を差し出してくれた。握られた手は体温かと思うくらい暖かかった。
空いてる手が向かい側の席を指して、伺うように此方を見た。
「えっと1人なら一緒に朝食食べん?」
「喜んで」
それから、彼と話すと時間が過ぎるのを忘れるくらい話した。身内の話から、仕の話、初対面なのを忘れるくらい楽しかったし、ドキドキもした。
「あ、あかん!今日はもう帰らな…侑士の誕生日やねん。せやから今日は誕生日の用意せな」
荷物をバッグに詰め込み彼は忙しそうに口を開いた。侑士、という男は先ほどから会話のときに何度も出てくる名前で、彼の従兄弟らしい。東京に住んでいるらしいが、毎年誕生日のときには謙也の家に来るのだと嬉しそうに話した。彼は一個下の翔太という弟と2人暮らしをしているらしく、かなり溺愛しているのだと恥ずかしそうに語った。
「ほんまおもしろかったわ。明日また会えんかな?俺、明日も来るから」
「明日またこの店に俺も来るから、そんときはまたゆっくり話そうな」
おおきに、綺麗に笑う彼に俺は完全に惚れていた。
次の日、またあの店に来た。昨日と同じ席に座る彼を見つけて、意気揚々と話掛けに行くと眉間に皺を寄せてこちらを見ていた。
「誰やねん、お前…」
「へ?何いうとんねん、俺のこと忘れたん?昨日話したやん!」
「初対面の相手にようそんな口がきけるな…」
「いやせやから」
「銀!!変な奴がおる!」
ちょっと待て、昨日のことを忘れたのか。そんな筈はない、俺は昨日一日今日のことで頭いっぱいだったし、誘ってきたのはあっちだ。
最初に小さい黒髪の男が出てきて、謙也を庇おうと俺を睨んだ。
「どないしたんや」
「いやなんもないから厨房戻ってええっすわ。」
そのすぐ後に厨房の奥からゴツい体をした男がのっそりと出てきてが黒髪の男が制止した。
「そこのあんたちょっとええですか」
俺は出口にそのまま連れていかれた。状況がよく飲み込めなかった。そのまま店の外に出された。外は雨が降り続けていた。
「謙也さんは特別なんや…謙也さんは普通の人とは違う」
「なんで…」
黒髪の男は一度視線を落として、すぐに力強い目で俺を睨んだ。
「一年前に事故に会って…短期記憶を失った。」
「記憶喪失?」
「ちゃう、長期記憶は脳の別部分にあるんや。せやから事故の前の日のことは覚えとる。新しいことは記憶はできん…寝たら全部忘れてまう」
「なんやそれ…作り話とちゃうんか」
「作り話やったらええわ…。謙也さんの時間は去年の10月15日の日曜で止まっとる。冷やかしであの人に近づくなや」
ザーザーと打ち付けるように降る雨がうるさかった。
とりあえずここで終わります。続きを書ける気がしない(^q^)50回目のファーストキスパロです。コメディラブストーリーみたいな話です。先週TSUTA○Aで借りて見たので、所々違うと思います。
記憶を失う彼女を毎日口説き落とそうとする男の話なんですが、いい話なのでぜひ見てみてください。