─好きなんです、先輩が。

初めて告白された。
でも相手は"男"
しかも同じ部活で、一個下の後輩。
もしこんな状況に立たされたらどうしたらいい?


とりあえず俺は、逃げた。







「謙也さん、こんにちは」
「ども…」

昨日のこともあってか、少しよそよそしくなる。今日の朝練をサボったのは昨日のことで夜遅くまで寝れなくて、完全に寝坊したから。しかし相手はそれを気にする様子もなく、今日も黙々と自主練に打ち込んでいる。
毎日一番最初にコートに立って、一番最後までコートに立ち続けるのはこの後輩──白石蔵ノ介だっだ。その精神力や体力には毎度感心する。
白石はまだ2年だが、列記とした四天宝寺中テニス部の部長だ。顧問であるオサムちゃんが白石を部長に指名したとき、誰一人として異論を唱えるものは居なかった。それくらい、部からの信頼も厚い奴だった。勿論、実力も折り紙付きだった。その実力が、毎日の努力から来ているものだというのは、皆知っている。
成績も優秀で、テニスには関係ないが、容姿もかなりのもので女子内だけには留まらず男子にもファンクラブが出来ているらしい。
それくらい凄い奴だ。そんな奴が、だ。昨日、自分に告白してきた。中2の気の迷いとか、思春期特有の勘違いとか、なんかの罰ゲームで男に告白しろだの、そんなものだとは思うが、昨日の、真剣な態度や視線に返事を返すことができなくて情けなくも逃げ出してしまった。あんな綺麗な顔に告白されて長時間も一緒にいたら間違いなく、はい、と答えてしまっていただろう。これだけは言っておくが俺はノーマルだ。男は好きではない。女が大好きなノーマル、そう純粋な男の子だ。

「あ、謙也さん」

名前を呼ばれてビクリと肩が跳ねる。恐る恐る振り向くと、そこにはやはり白石が立っていて、どこか機嫌良さそうそうにニコニコと笑っていた。その笑っている姿がどこか不気味で顔をしかめてしまう。

「なんやねん…」
「あ、いや。シャツ裏表反対やな、って思って」

そう言われて見直すと、見事に服は逆で羞恥で顔が真っ赤になる。白石はクスリと笑った。

「相変わらずですね」

なんて、綺麗な顔で笑われるものだから羞恥とはまた別の意味で顔が赤くなる。しらいしー!と何処からか間延びした声が聞こえてきて、白石はそれじゃ、と一礼してからどこか行った。

「なんやねん、あいつ…」

何事も無い会話。やっぱり、昨日のは罰ゲームとかだったのだろうか。ああ、バカらしい。意識している自分がバカらしい。いや、寧ろ罰ゲームの方が良かったじゃないか。ズキリと痛む心臓を押さえて小さく深呼吸をした。

「ラブラブやな〜」
「っうわ!なんやねん!!」

いきなり肩にのし掛かる重さに思わず声を上げてしまう。睨むと、そこにはニヤニヤとご機嫌そうに笑うユウジの姿があった。

「なんや昨日なんかあったんか?」
「は?」
「いや、は?やなくて」
「別に…なんも無い」
「あ、そう。何やいつもとちゃうな思ってんけど気のせいやったか」
「な、なにが…?」
「ガチガチやん自分。もしかして…告られたとか?」

ビクリと面白いほど肩が上がった。それに気づいたユウジは茶化すように笑った。

「ええんとちゃう?白石、真面目やし」
「アホか、お前と一緒にすんな。俺はホモやない」
「俺かてホモちゃう。ただ小春はな、男とか女とか関係ないねん。性別で表すなら小春やな」

いつもの意味の分からない小春語りがまた始まった。うんざりと言わんばかりにと肩を落とした。















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