静まり返った教室から見える桜は校庭を鮮やかに舞っていた。
三年前に見た桜は、新たな始まりに胸をときめかせた。
三年後に見る桜は、終わりを告げるようで酷く胸が苦しかった。
俺は東京の高校を選んだ。それは後悔もしていないし、迷いもない。将来の為だと割りきってしまえばなんてことはない、といつも言い聞かせた。
他の面子は大阪県内に多く滞在するようで、学校はバラバラでも気軽に会える距離だと笑いあっていた。
正直な話、少し羨ましいと思った。ええなあ、毎度毎度口から溢れそうになるが何度も何度も飲み込んだ。言ってしまったら未練が残ってしまう。
元々、1人でいるのが嫌いな性格だから、寂しくないと言ったら嘘になる。
最後ぐらい、言ってもいいだろうか。どうせ、誰も聞いていない。最初で最後だから。
「寂しいなぁ…」
「なら、なんで行くん?」
間一髪入れずに返答が返ってきた。まさか、聞かれているとは思わなかった。それに気配すら感じなかった。だが、声の主はすぐに分かった。こんなことを言うのは1人しかいない。
「白石…」
東京に行くことを話したのは先週。それまでは、騙し通した…恋人である白石にも。勿論、怒ったし驚いていた。
話したのがつい先週で良かった、もっと先に話していたら俺は今頃大阪に留まることを決めていたかもしれない。だから、白石には直前まで話さなかった。
それから、別れを切り出したのも先週。酷く辛そうな顔をされて泣きたくなった。本当は別れたくなかった。だが、東京と大阪の遠距離恋愛を続けるのは白石にも負担が掛かると思った。どうせなら、遠くに行った俺のことを忘れて新しい彼女でも作って楽しい高校生活を過ごして欲しい、それが願いだった。
白石は、それ以来口を聞いてくれなくなった。酷く辛かったが、これで良かったんだと何度も言い聞かせた。
涙は出てこなかった。
泣いてしまったら、これからずっと会えなくなってしまうような気がしたから。
「1人で行って寂しいんやったら大阪に残ればええやん」
「せやけど、もう決まったことやし」
「なんで、1人で全部決めたん?」
「……」
「なんで、東京に行かなあかんの?……なんで、」
「白石…」
「なんで、ほってくねん…」
言葉と同時に白石の腕の中に閉じ込められた、近くで感じる体温や肩に染み込む涙が、酷く鮮明に感じられた。
「ごめん…厚かましいおもうとるかもしれんけど…俺、別れたない」
「……あかん、」
「…いやや」
「白石」
「……」
駄々を捏ねる姿は、今年一番手を妬いたゴンタクレと重なるものがあるな、と場違いだと分かっていながらも考えてしまう。
少し前のことでさえも懐かしいと思ってしまう。白石が毒手と偽って駄々を捏ねる金ちゃん追いかけたり、それで千歳が金ちゃんを庇って2人ともお説教をくらったり。それを、仲慎ましく見守るバカップルや白石を宥めるにいく銀や健二郎、アホみたいやとぼやきながらもいつも俺らについてきていた光。
どれも、懐かしく感じる。全てを手放すのが惜しいくなる。
肩から重りが無くなり、白石が離れたことに気づく。ギュッと両手を握られ視線がぶつかる。ああ、これは丁度一年前に見た光景だ。
「ほな、俺…三年間我慢するから、三年…もし謙也が俺のことまだ好きやったら……」
やめてくれ。
だんだんと滲む視界の中で白石の視線だけはハッキリと見えた。
「また俺と付き合ってください」
ずるい。
そんなの"はい"しか答えられないじゃないか。
end
リクエストありがとうございました!
別れのはずが、ちゃっかり三年後交際宣言とかしちゃってすみません><
うーん…青春してる蔵謙は難しいですね^∀^←