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 大河の上流から、朱塗りの船がやって来る。
 貴人を乗せるのに相応しい優雅な装飾が施された船は、遠目からも目立った。
 船着き場で船の到着を待つ陸遜は、船影が近づいて来るにつれ、幾ばくかの不安を孕みながらも再会の喜びが胸に満ちていくのを感じていた。
「おかえりなさい」と言うべきか、「お待ちしていました」と言うべきか。
 出来れば互いの想いに適う言葉を、最初にかけたかった。
 彼女が彼方の地に嫁いでいた二年間は、言葉にすれば短いが、陸遜にとっては悠久に近い時間だった。
 情勢を鑑みれば、恒久的に続く同盟では無い事は初めから分かっていた。
 それでも気性の真っ直ぐな彼女が、同盟が決裂した際に、祖国に戻らぬ選択をする可能性もあったのだ。
 他国の後宮に入ってしまえば、二度と顔を見る事も声を聞く事も出来ない筈だった。
 その彼女を乗せた船が緩やかな流れに乗って、陸遜の元にやって来る。
 出迎えの役目を願い出たのは、祖国に戻った彼女が最初に見せる表情を、この目で捉えたかったからだ。
 そこにある感情と、これからの二人の可能性を知りたかった。
 かける言葉を考えあぐねていると、船室から艶やかな漢服の裾を翻して娘が出てきた。
 表情までは見えないが、陽の光が照らす明るい髪の色は見間違えようもない。
 闊達な足取りで舳先の方にやって来た娘は、船着き場にいる陸遜に気付いたのか、大きく手を振っている。
 陸遜は思わず頬を緩めると、娘に負けじと手を振り返した。
「会いたかった」と、ただ一言を伝える勇気が芽生えた瞬間だった。
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