私、黒怦塔勤めの魔導師、カーラと言います。
今ここに、私が長年研究してきた実験が成功したことを証明します。
「ジャーファルかっわいいんだけどもう私どうしよう」
「あんたが勝手に魔法かけたくせに…」
この、私の目の前でぶーたれてるこれ、この子。まさかのジャーファルですよみなさん!!
大きさは両手のひらに乗っかっちゃう程度で、頭にできた小さな白い耳と、ぴょこぴょこ揺れてる白いしっぽ。もう、可愛いというか最高というか可愛いというか可愛い。
まさに、筆舌に尽くしがたい可愛さですね。
「聞いてんですか、カーラ」
「その姿で睨んでも可愛いだけですよニャーファルさん!」
「ニャーファル!?」
「ファルニャーでもOK!」
「ウインクするんじゃありません!!」
バチコーン!とウインクを決めたら怒られた。だからその姿で怒ったって可愛いだけなんですって。
「はあ…この魔法、いつ解いてくれるんですか?」
「え、私的にはいつまでもその姿のが…」
「良い訳ないでしょう!」
撫でようと手を伸ばしたら、スルリと逃げられた。ちぇ。
「えーとえーと、確か……三時間後ですね、ニャーファルさん」
「その呼び方やめなさいと言ったでしょう。というか、え?三時間後…?」
「うん」
ほら、とジャーファル猫化計画書を見せると、ジャーファルは全てを諦めた顔でゴロンと床に転がった。可愛い。
「ジャーファルー?」
ジャーファル猫を抱きかかえてベッドに座る。
「拗ねないでよー」
「拗ねてません」
白いしっぽがパタンと揺れる。
「そんな君には〜、じゃん!ねこじゃらし〜!」
これでへその曲がった猫の機嫌もすぐさま治ること間違えなし!
「そんなのに釣られるわけないでしょう」
そう言いながら、しっぽすごい揺れてますよ?
「それっ」
ねこじゃらしを振ったら、凄い勢いで向かってきましたよこの猫。可愛いなあ。サイズも小さくて可愛いなあ。
「……ん?」
なんか、記憶の中の数字と違うような。
「どうかしましたか、カーラ?」
計画書を見て首を傾げてると、ねこじゃらしを仕留めたジャーファルが満足気に近寄ってきた。そのドヤ顔、ご馳走様です。
「うん…ちょっと、ね」
「?はあ」
サイズの所の数字がおかしいような気がするけど、まあいいか。
「ジャーファルー!!」
「うわっ」
逃げようとするジャーファルを捕まえて、ベッドに寝っ転がった私のお腹の上に。
「あー、い・や・さ・れ・る〜」
「……」
もうめっちゃ可愛い。魔法最高ジャーファル猫最高!!
「やりたい放題ですね、カーラ」
「ジャーファルが猫だから」
「したのは君でしょう?」
はあ、とジャーファルがため息をついた瞬間。
ボンッ!
「っ!?ちょ、ジャーファル無事!?」
ジャーファルから煙が出た。まさかの実験失敗!?というかジャーファルは!?
「やっとですか…」
「ジャーファル、だいじょう……あれ?」
冷静な声が聞こえたと思ったら、そこにいたのは可愛いちび猫ジャーファルではなく、普通の大きさのそばかす顔。いつの間にか、もとのジャーファルに戻っていた。
でもその頭には、きちんと猫耳がついている。
「ジャー、ファ…ル?」
「計画書をちょこっといじらせて頂いたのですが、正解だったようですね」
「なっ…」
薄っすらと笑みを浮かべるジャーファルに鳥肌が立った。
ひょろりと生えているしっぽは、獲物を見つけた時のようにピンとたっている。
「ちょっと、そこ退きましょうか、ジャーファルさん…」
「こうしたほうが、君は癒やされるのでしょう?」
同じ猫耳のはずなのに、身の危険を感じるのはなぜだろう。
「ねえカーラ、知ってますか?猫は、仕留めた獲物が力尽きるまで、弄り倒すんですよ?」
「い、いじりたおす…」
私には、彼が猫の皮を被った狼にしか見えないのですが。
「君も、軽はずみな言動は控えることですね。もっとも、もう遅いですが」
にこり。完璧に笑ったジャーファルは、チビ猫姿より何倍も輝いて見えました。
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12/5 修正しました。 葉桜琴葉