「あーーーったま痛い!!」
「カーラ、うるさい」
カーラの叫びをピシャリとはねのけ、何事も無かったかのように書類を捌くジャーファル。
そんなジャーファルを横目で見ながら、カーラはだらしなく机にうつ伏せた。
「ジャーファルさーん。可愛い後輩が病にくるしんでるんですよ?そういう言い方は無いんじゃないですか?」
「病は気からと言うでしょう。自分でなんとかなさい」
「ええ!?」
ジャーファルのあんまりな言葉に、カーラはますます机に沈んでいく。
「ジャーファルさんの鬼ー!」と叫びながら泣く後輩にイラッとしたジャーファルは、その頭に手刀を落としたくなるのを抑えつつ、深いため息をついた。
「カーラ、そんなに痛い痛いと騒いでいるのなら、当然薬ぐらい飲んだんですよね?」
「………」
とたんに静かになったカーラに、頭を抱えたくなった。
「飲んでないのですか?」
「……はい」
やっぱり。
「飲まなければずっと痛いままですよ。どうしますか?」
「………」
「もちろん、飲みますよね?」
何も答えないカーラに渾身の笑顔で問えば、青い顔でしぶしぶ頷いたのだった。
カーラは目の前に置かれた粉末を気味悪そうに見つめた。
「ジャーファルさん、私、こんなの飲みたくありません」
「ダメです。飲んでください」
「嫌です」
「飲んでください」
「嫌だ!」
「飲め!」
「嫌!」
薬を前にし、なおも駄々をこねるカーラ。嫌なものは嫌だの繰り返しである。
「なんでそんなに嫌がるんですか」
「だって苦いし」
「良薬は苦いものです」
「……そんなの嘘っぱちだ」
「失礼ですね。私が信頼している医務官にいただいた薬ですよ」
「………私には合わないかもしれないし」
「そんなこと飲んでみなければわからないでしょう。早くしてください」
「……ううっ」
口で勝てないと思ったのか、しまいには泣き真似をしてきたカーラに、ジャーファルのなにかがぶつりとキレた。
「いいから早く飲め!口開けろ!」
「ぎゃぁぁああ!!」
女性らしからぬ声を上げるカーラなど知ったことかと、カーラの口をこじ開け薬を流し込むジャーファル。全てが口に入ったことを確認してから、コップに入った水を差し出してやる。
「はあっ、はあ……な、にするんですか、ジャーファルさん!」
渡した途端に水を飲み干し喚くカーラにジャーファルは優しく言った。
「はい、よく飲めましたね」
「えーと、ジャーファルさん?」
「なんです?」
「この手は、いったい…?」
この手とは、つまりはカーラの頭を撫でているジャーファルの手を指すのだろう。
「ご褒美ですよ」
「ご褒美、ですか……」
「あれ、嬉しくない?私なりにほめてるつもりなんだけど」
「いや、嬉しいですよ?嬉しいですけど!」
ものすっごーく子供扱いをされているような。
「薬を嫌がるのは子供ですから」
カーラの心の内を覗いたかのように、ジャーファルが言う。
「ついでに言うと、すぐに寝るのも子供です」
「それはしょうがないじゃないですか。薬飲んだんだし」
「まあ、そうですね」
口を尖らせながら、襲い来る眠気に耐えていると、ひょいっと体が持ち上げられた。
「わっ!え?」
「イスで寝ると逆に疲れますよ」
そう言いながらジャーファルはカーラを膝の上に座らせる。
「え、いや、なんで。え?」
混乱しているカーラの頭を、再度ゆっくりとなでる。
ジャーファルの手の動きが、カーラを確実に夢の世界に誘う。
「ジャーファルさん…」
「早く寝て、早く良くなってください」
おやすみ、カーラ。いい夢を。
その言葉を子守唄に、カーラは眠りについた。
目が覚めて、慌ててジャーファルの膝から飛び降りたのは数時間後のこと。