※シンドバッドの独白
中庭に、仕事の鬼といわれる政務官と、しっかりしてるがどこかぬけてる料理次長が、暖かな風に包まれながら夢の世界にいた。
ジャーファルは浅い、カーラは深い眠りについている。
その二人に忍び寄る一つの大きな男の影。
ジャーファルはもちろんその気配に気づいていた。気づいて──そのまま眠り続けた。むしろ安心したように深く眠り出す。
僅かに残った険のある表情を消し去り、カーラに負けないくらい無防備な寝顔になったジャーファルに、男の頬が緩む。
クーフィーヤをとり、頭を撫でてやる。
持ってきていた二枚の毛布を、二人にそれぞれかけてやった。
ざわっと、木々が風に吹かれてざわめいた。その風は木の下にいる三人にも平等に吹き、髪の毛が風になびいた。
背中を木に預けて眠るジャーファルと、ジャーファルの膝に頭をのせて眠るカーラ。
大変な過去を背負った人物とは思えない。
お互い大切な人を見つけたんだな。
保護者として、少しばかり寂しい気もするが、それ以上に喜ばしい。
こんな日がずっと続けばいい。
いや、続けてみせる。どんなことをしても。
揺るぎかけてた意思を固めて、手付かずのまま放置していた書類の山を思い出す。
ヤバイな、バレたら怒られる。
自分がサボっていたと知った政務官の、目が笑ってないあの笑顔を思いだし、顔を青くして踵を返す。
けして軽くない足取りのなか、二人を振り返ってみれば、カーラはもとより、ジャーファルも穏やかな顔のまま。
それでいい。
願わくは、自然に起きるその時まで、警戒などせず眠ってほしい。