「それにしても、お二人がお知り合いだったなんて…」
「世界って狭いねえ」
王の執務室にて。
にこやかに会話するジャーファル様とセカイさんはいいとして、問題はこの部屋の主とムエナの主である。
ふたりとも、もう30分近く部屋の隅で小さくなっている。しかも、正座で。30分も正座なんて、そろそろ足も限界なのでは。
「あの、ジャーファル様。そろそろ許して差し上げても…」
「まだダメですよ。君が心を痛める必要はどこにもありません。本人たちの自業自得ですから」
「そうそう!それに、30分かそこらでどうにかなるような足なんて持ってないでしょ」
ねー、と笑い合う二人。
だが、無関係とは言えないムエナの頬はひきつった。
セカイさんとの突然の再会に驚いているところに、偶然ジャーファル様が通りかかり、これまでのことを二人してジャーファル様に話した。
そこまでは良かったのだが、現実はそう甘くなかった。
「おや、ムエナ。その書類は?」
というジャーファル様の台詞に、ユウ君が
「それ、急ぎだって言ってましたよね?大丈夫ですか?」
と被せ、なんとか私が誤魔化そうと、大して急ぎではない的な言葉を口走ると、
「でもムエナさん。ムエナさんの主の人は急ぎだって言ってたのでしょう?」
「ムエナちゃんの主って?」
「シャルルカンですよ。誰宛ですか?」
ユウ君、セカイさんときて、最後のジャーファル様の台詞には拒否権なんてものはなかった。
顔が笑っているのに目が笑ってない。そんな笑みを浮かべて聞かれれば、答えないなんて選択肢はすぐさま消え失せる。
それでも頑張って隠そうとしたが、書類を取り上げられたらそれも無意味だ。
一通り斜め読みした書類を手に、七本の角を生やしたジャーファル様は、その足でシャルとシン王様を捕まえ、今の今まで説教をかましていたところである。
「それにしても、ムエナちゃんは変わらないなぁ」
「そ、そう?これでも一応変わったつもりなんだけど」
「いやぁ外見とかさ。ムエナちゃんの髪も目も珍しいけど、服がきちんとしてるところとか、几帳面な所は全然変わらないよ」
「セカイさんも外見は……変わったね。そんなにお腹だして、風邪ひかないでよ?」
「シンドリアは暑いから大丈夫!」
「襲われないでよ?特に女性」
「……好きでそうなってるんじゃないもん」
昔から、セカイさんの女性人気は凄まじいものだった。
いくらシンドリアが暑くて風邪を引く心配はないとしても、ほかの心配は山ほどあるんだから。
「よし!ジャーファル君、僕とムエナちゃん今から休みもらっていい?」
「え?今からですか?」
「ムエナちゃん、遊びに行こう!あ、ジャーファル君もくる?」
「私は仕事があるので、申し訳ないですが」
「それは残念。じゃあ、二人で行こうか。ユウ、留守番よろしく。おみやげ買ってくるから!」
「わかりました!」
「わ、私も仕事…」
「大丈夫。ジャーファル君が休みくれたし。ジャーファル君、一応ユウを部屋につれてってもらっていいかい?」
「構いませんが…」
「私の主はジャーファル様じゃなくてシャルだし…!」
「僕と遊びたくないの?」
「うっ」
大きな目に見つめられたら…これ以上誘いは断れない。
「わ、わかったよ」
「やった〜!」
「すみません、シャルルカン様。そういうことなので…」
「ああ、うん…楽しんでこいよ」
死んだ目をしているシャルルカンに見送られ、二人は王宮をあとにした。