不思議な人だと思った。
白鳥から、いきなり人の姿に変わった私に、微笑みかけるだなんて。

普通の人は、気味悪がる。
私が今まで会った人たちも、私を化け物と呼んだのに。

実の親でさえ。


「あの、どうされました?」


意識を向けると、そこには心配そうな彼の顔が。


「寒いんですか?」

「…いえ」

「本当に?」

「…はい」


よかった、と彼はまた笑った。
その笑顔は、なにか特別な力でもあるのだろうか。
人を惹き付けて、離さないような──


「ソフィア…さん?」

「あ、…ごめんなさい」


いつのまにか、じーっと見つめていたらしい。不思議そうな瞳とぶつかった。


「いえ、大丈夫ですよ」


なにが楽しいのか、彼はにこにこと笑ってる。

不思議だ。というか、おかしいのではないか?
だが、その笑顔は、どこか心地よかった。


「あの」

「はい、なんでしょう?」


自分から話しかけると、笑顔がさらに深くなる。

…面白い。


「あなたの、名前…教えてくれますか?」

「私?私は、ジャーファルと申します」


にっこり。また、笑う。


「ジャーファル…?」

「そう。ジャーファル」


ジャーファル、ジャーファル。

忘れないように心のうちで繰り返して、彼を真似るように口角をあげた。


「素敵な、名前ですね」


彼─…ジャーファルは、目をまるくしたあと、完璧と言えるような笑顔をみせた。


「ありがとうございます…!」


眩しくて目が眩む。目を細めていると、ジャーファルの手が伸びてきた。


「そんな格好では風邪を引きます。ついてきてください」

「…どこへいくの」

「王宮です」

「え…」


体が強張る。
それを感じ取ったのか、ジャーファルは強引に私の手を取り引っ張りあげた。


「…っ!?」

「大丈夫ですよ。なにもしませんから」


またあの笑顔で言われた。
けど。


「いや…」

「ソフィアさん?」

「いやです。私は…」


体がガクガクと震えてくる。あのときの恐怖は忘れられない。
信じていた家族に裏切られ、見知らぬ男たちに身体中を撫で回されて………


「ソフィアさん!」

「ぅ…」

「大丈夫ですよ。ただ服を着るだけです」

「服…」

「ええ、そうです。あなた今、裸ですから。王宮にもどって、あなたに服を着させます。それだけですから」

「それだけ…?」

「売り飛ばしたりなんかしませんよ」


ジャーファルの顔は、心外そうな顔だった。


「……」

「安心しましたか?」


こくんと頷くと、剥き出しの肩にジャーファルの手が回った。


「じゃあ、行きましょうか」

「……はい」


ジャーファルの手は暖かく、とても気持ちがよかった。



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