そして私は旅に出る!
新しいメンバーを迎えて、てくてくと魔王を目指し歩くこと30分。
「お腹すいた…」
音を上げたのは他でもない、私だ。
「我慢なさい」
「そうくると思った」
あんたになんか期待してないよーっだ!
「年甲斐もなくアカンべなんてしないでください気色悪い」
「うるさいな、ジャーファルのばーか!」
言ってから後悔した。ジャーファルの笑顔が怖い。
「へえ…」
「ひぃっ」
怖いよ、怖いよぉぉ!
「ま、まあまあジャーファルさん。フィレアさんは荷物持ってくれてるんですし」
「それがフィレアさんの仕事だろ、バカ女」
「なんですって!?」
またもや始まった痴話喧嘩はスルーの方向で。
いやはや、仲がよろしくて結構結構。
「よろしければ持ちましょうか?」
そんな優しい言葉をかけてくれたのは、隣を歩いていたスパルトス!なんて優しい子でしょう!
「ありがとう!ではお言葉にあまえ…」
「スパルトス、甘やかす必要はありませんよ」
突如として飛んできた鋭い突っ込み。
後ろを振り返らず黙々と歩むジャーファルにむかって、舌を出した。
「まったく…ジャーファルママンがダメって言うから、しょうがない」
「誰がママンですか」
今度は振り返って睨んできたが、無視だ無視。
「あ、そうだ。こういう時のために、ピスティがお弁当持たせてくれたんだ!」
マイプリティーガール、ピスティ!
十中八九作ったのはドラゴンのおじさまだろうが、まあそれは置いといて。
「皆で食べよう!」
パンパンに膨らんだバックからお弁当とレジャーシート等々を広げる私の周りに、スパルトスとシャルルカン、ヤムライハが集まってきた。
「なにしてんスか?」
「お昼にしよう!」
「もう?」
「もう!」
だってお腹すいたし!
「ちょ、待ちなさい!ここ外ですよ!?」
そんなナンセンスなことを言い出すのは、ソバカスお母さんことジャーファルママン。
「わかってないな〜ジャーファル君」
チッチッチと人差し指を左右に動かす。
ジャーファルが一瞬にしてイラッとした顔になったけど気にしない!
「ピクニックだよ!まわりをみてごらん!雄大な自然に囲まれ、空は雲ひとつない!」
この条件でピクニックしないっていう選択肢とかあり得る!?あり得ないでしょ!
「わかってないのはアンタだ!」
「カリカリし過ぎだよ、これでもお食べ」
ガオウと吠えたジャーファルの口に放り込んだのは、お弁当の中に入ってたレバー。
さすが将軍。ジャーファルが鉄分足りないのわかってて入れとくなんて。因みに私はレバー嫌いだが、ジャーファルは大丈夫らしい。黙々と食べている。良かった良かった。
「さあ!皆も食べよう!」
そして始まったピクニックタイム!
ワイワイガヤガヤと楽しんでいると、やっとレバーを食べ終わったジャーファルが静かに口を開いた。
「ここ、モンスターのテリトリーなんですけど」
食べ終わるの遅かったな、やっぱ詰め込み過ぎたか。だって串一本についてるレバー全部ジャーファルの口の中入れたからな………なんて思ってた私は固まった。
「……は?」
「いやだから、ここは敵の領域ですって意味です」
「うん、漢字に直さなくてもそれくらいはわかる」
さっきまで騒いでいた三人もいつの間にか静まってる。
えーっと、つまり…?
「こんなとこで騒いでたら、敵、たくさんくるんじゃないですかね?」
うそだろ、おい…
「ジャーファル、ど、どうしよう…」
ていうか、そんなこと知らなかったし!!
焦っている私を見ながら、ジャーファルは平気な顔。
よく見れば周りの奴らも、平然と弁当を摘んでやがる。
「ちょっと!何呑気にちくわ食べてるの!?」
美味しそうにちくわを頬張るシャルルカンを揺さぶる。
敵来るんだよ!?やられるよ!?
「まあ、大丈夫でしょう」
「なんでだよ!」
「なんでって…私勇者だし。僧侶も武闘家も魔法使いもいるし」
「ああ…」
言われてみれば。
「そんなに慌てなくても、あなたはキチンと守りますよ」
不意に言われたその言葉に、思わず涙が……
「仕事ですし。それに死なれて枕元に立たれても迷惑ですしね」
「一言多いんだよこのソバカス!」
私の胸の高鳴りを返せ!!
青空の下でピクニック
(このお弁当、何気におでんも入ってる…)