そして私は旅に出る!
泣きべそをかきながらジャーファルの後をついてき、裏口からそとに出た。
さんさんと照りつける太陽が痛い。
「…いつまで泣いてるふりをしてるんですか」
「バレた?」
「バレバレです」
軽くあしなわれた。
「これから一緒に旅をする仲間たちです」
そう言うジャーファルの視線の先には、地味な男性とその男性に絡むピスティちゃん。大きな帽子をかぶっている女性はシャルルカンと言い争いをしている。将軍はそれを見守っていた(睨み付けてるようにしか見えないが)。
「ほらほら、皆さん自己紹介をしてください」
パチパチと手を叩いて注意を集めるジャーファル。
お前は小学校の先生か!!
「はじめまして。魔法使いのヤムライハです」
シャルルカンとの喧嘩はひとまず置いといてくれたらしい。
めちゃくちゃグラマーな魔法使いだ。
「こちらこそ、はじめまして。私は…」
「フィレアさんですよね!?」
「う、うん…」
べっぴんさんに迫られるとは思わなくて、びっくりした。
てか、本当綺麗だなぁ…。
「ジャーファルさんから話は聞いてます!」
「はあ…」
ジャーファルから伝わってるなんて、悪い予感しかしない。
「あの、ちなみになんて…」
「ヤムライハ!スパルトスの紹介もあるのですから、彼女を離しなさい」
「……はーい」
ガシッと掴まれてた腕を渋々離される。
あ、待って。まだ話が…
「なにやってんですか、貴女も早くしてください」
「……はーい」
なんだよジャーファル。私はヤムライハちゃんと話しちゃダメなのかよ。
ていうかここまで頑なに名前を呼ばないとかどうよ。ひどくない?
「…ジャーファルの意地悪」
「うるさいですよ。それより、彼はスパルトス。武闘家です」
「スパルトスといいます。よろしく」
「フィレアです。よろしく」
茶色の髪をぴったり45°で切ったような、きっちりとした青年。
線が細く武闘家には見えないが…
「なんか、家で祈りでも捧げてそうだね」
「ああ、スパルトスの趣味はお祈りですから」
「は!?武闘家がお祈り!?」
「ええ」
ええって、おい。
それならシャルルカンと変わってあげればいいのに…
「なによ!この、ガングロ!!」
「はあ?カビ臭いだっせえ帽子かぶってるやつに言われたくねーよ!」
「この帽子の良さもわからないの?はっ、可哀想なやつね」
「そんな帽子の良さなんかわかってたまるか!んなアホなこと言ってねーで、少しは化粧とかしたらどうだよ!ばーか」
「うるさい!余計なお世話よ、ハーゲ!!」
「ハゲてねーよ!!」
こっちはこっちで喧嘩再開しちゃってるし。
てか、まさかのヤムライハちゃんノーメイク!?あの真っ白な肌は天然物だと!?
……天は人に二物を与えず、なんて言ったやつ誰だ?思いっきり嘘じゃねーかよ!
「……信じてたのに…」
「はあ?何言って…って、ちょ、なんで泣きそうになってんですか!?」
あれ?なんでだろう?
さっきよりも悲しい…
驚いてるジャーファルだって、天から二物以上のものを与えられたやつだもんなぁ…
「別に。天に愛されて良かったね、ジャーファル」
「だから、何意味わかんないこと言ってるんですか」
天にいるであろう神様仏様を呪っているうちに、シャル&ヤム(長いから省略。言ってられるか!!)の喧嘩はヒートアップ。
取っ組み合いながら二人が放った言葉に私は思わず突っ込んだ。
「魔法こそ最強よ!!」
「剣こそ最強だ!!」
「ストォォォッップ!!!!」
持てる力のほとんどを喉につぎ込んだお陰で、お二人は驚き顔で止まってくれた。…代償に私の喉がボロボロだが。
「ちゃっとそこの君」
「「?」」
「剣こそ最強とか言っちゃった君だよ」
「俺ッスか?」
「シャルルカン、君の職業は?」
「剣士……僧侶っす」
「隠せてない!!本音出ちゃってるぞお前!!隠すんだったらもっと上手く隠せよ!」
「だって俺は剣士が良かったんすよ?なのに、なんかムリヤリ僧侶にされて…」
ううっ、と目元を隠すシャルルカン。可哀想に。
なんでムリヤリこいつなんかを僧侶にしたかなぁ。僧侶って清らかな人じゃないとダメなんだよ。こんなガングロ論外だよ。
「でも、嫌でも今は僧侶なんだから、剣が最強!なんて叫んじゃダメだと思うなぁ、私」
「やっぱフィレアさんも魔法ですよね!?」
「はっ?」
「てめえ、そんな訳ねーだろ!フィレアさんは剣だから!」
「いや、ちょっと待って…」
「そんなこと一言も言ってないじゃない!」
「心の中ではみんなそう思ってんだよ!」
シャル&ヤムの喧嘩に巻き込まれてみてわかったことは、主張は聞いてもらえないということ。いや、主張どころかなんにも聞いてもらえない気がする…
だって私が話した言葉って、「はっ?」と「いや、ちょっと待って…」だけだもん。しかも声を出しただけで、二人に掻き消されちゃったし。
「二人とも!いい加減にしなさい!!」
ぶちっと何かがキレた音と共に、ジャーファル先生の雷が落ちました。
「まったく、あなたたちはいつもいつも…」
くどくどお説教タイム突入。
さっきの威勢は何処へやら、二人はシュンとして正座してるし。
「おーこわ」
「貴女もも正座しますか?場所はまだまだ空いてますよ」
ぐりん!とこちらを向いたジャーファルの目が、笑ってない。顔は笑ってるのに、笑ってない。
「全力でお断りします」
「そう言わずに」
ジャーファルの真っ黒笑顔、何度みても背筋が凍るわ……
「い、いや、私は、えっと…あの武闘家の…ス、ス…ストルパス!そう、ストルパスとお話があるので」
「誰ですかそれ」
「え?だから武闘家の…」
「スパルトスです…」
「うわっ!?」
真横から声がしたと思ったら、武闘家のお兄さんが。
うわあ、こっちは真っ暗だ…
「ご、ごめんね?その…わ、忘れちゃって…」
「傷口に塩を塗るような行為はやめてあげてください!」
「いえ…いつものことなんで…」
ハハ、と笑った顔色がめちゃくちゃ悪い。
「ほ、本当にごめん!ス、スト…ス、パ…?」
「スパルトス…」
「そ、そう!ストルパス!!」
ああ、今にも隅でのの字を書きそう。
本当にごめんなさい。でも、
「暗すぎるわ!」
やっぱジャーファルの知り合いは変なやつばっか!!
「貴女があんなこと言うからでしょう。人のせいにすんな!」
「いたいっ!」
ジャーファルの手刀を頭にくらい、目がチカチカしました。
根暗な武闘家
(ごめんって!私が悪かったからウジウジしないで!!)