そして私は旅に出る!
中に入ると、そこは雪国だった。
「ごめんください」
「こんにちはー」
二人は普通に挨拶しているが、
えーと?
「ここ、どこ?」
「もうボケたんですか。早いですね」
「いやいやツッコミおかしくないかい?」
ボケたってなんだよ。ヒデーなおい!
「さっきまで話してたことを忘れるなんて、ボケた以外になんかあるんですか?」
「うーん、それはそうなんだけど…」
でもね、この光景みたら誰でもこうなると思うんだ。
雪のように見えたそれはよく見ると半透明で、しかもドラゴンのような形をしている。それでも気持ち悪いのにそれがそこかしこに置いてあるのだ。飲み屋にあるまじき内装。これを見ながら飲むなんてとてもできない。
「いらっしゃいませー」
奥から明るく可愛い声とともに軽い足音が。
ひょいっと顔を出したのは、金髪の美少女だった。
「久しぶり、ピスティ」
「元気だったか?」
「わー!ジャーファルさんとシャルだー!!」
にこやかに挨拶をする二人に少女は飛び上がらんばかりに喜んでいた。と思ったら、くるりと方向転換。駆け足で元来た道を戻っていく。
「将軍!しょーぐん!!ジャーファルさんとシャルが来たよー!」
…将軍?って、え?
なぜ将軍が真っ昼間の飲み屋に?
しかもなぜ少女は奥に向かって叫んでいるんだ?
「ジャーファル?将軍って、いったい…」
「ここの飲み屋の主人です」
「…てことは、将軍とはあだ名、みたいなやつ?」
「……まあ、そうですね。ですが彼はとても強いですよ」
「飲み屋の主人が!?あんたの知り合いみんな変なのじゃないでしょうね!?」
「変なのとは失礼な。皆さんいい人ですよ」
本当かなぁ…不安だ。
「ジャーファル、シャルルカン。いらっしゃい」
「ゴフッ!」
奥から出てきたのは、どうみても人とは思えない容姿をしていた。
飲み屋の主人ってドラゴンかよ!?
変なのじゃないか!!
「お邪魔しています、ドラコーン殿」
「久しいな、ジャーファル」
「ええ、本当に」
「シャルルカンはよく来ていたが…お主が来たのは半年も前だ」
「その節は、大変お世話になりました」
ドラゴンなのに人間くさい。
なんだこれ。しかもなんか、飾ってある半透明の物体の形に似てる…っていうか、まんま将軍だ!
「貴君、それが気になるか?」
じーっと半透明の物体を見ていたら、将軍に声をかけられた。
目が若干輝いているような……
「い、いえ…」
「どう思う?」
これを見て!?気持ち悪い…なんて言えるか!!
「え、ええと…」
こうなったら…
秘技!
『長いもの には 巻かれろ▼』
「とても素敵ですね!」
説明しよう。
これは、心にも思っていないことを相手に合わせて笑顔で言い切る、世渡り上手な技である。
ジャ「世界一情けない技ですね」
おいジャーファル!勝手に脳内説明に入ってくるんじゃない!
「おお。お主もそう思うか」
「ええ!将軍さんの形のところとか、感動します!」
「そうかそうか。これは一番巧く向けた皮でな」
皮!?剥けた!?
ドラゴンって皮剥けるの!?
「そ、そうなのですか!かっこいいですね〜」
笑顔がひくつく。
だ、誰か…タスケテ…
「ドラコーン殿」
将軍にジャーファルが話しかけ、私は解放された。
よかった…私は自由だ!ジャーファルありがとうっ!!
「ねえねえ」
クイッと袖を引っ張られて、顔を向けるとそこにはあの美少女が。
「私ピスティ。あなたは?」
「ピスティちゃん。私はフィレアだよ」
可愛い。ピスティちゃん、なんて可愛いんだ。
「フィレアたんって呼んで良い?」
「いいとも!!」
可愛すぎて断れないっ!
でも、フィレアたんってさすがに…
「あなた、自分の年齢わかってて言ってます?」
「うるさいな!わかってるよ!!」
今年25の女にそれはないってわかってる。わかってるけど…
「こんな可愛い子に頼まれたら断れるわけないだろ!?」
「なに威張ってんですか」
「可愛いこそ正義!!」
「ワケわかんないこと叫ばないでください」
ジャーファルが冷たい…が、いいもん!私にはピスティちゃんが…
「ピスティ」
「はーい。なあに、将軍?」
「ピスティちゃん、カムバァックゥゥゥゥゥ」
あああああ…
ピスティちゃんが行っちゃった…
「ほら、馬鹿な顔してないで行きますよ。ああすみません、元からでしたね」
「ヒドッ!」
さらっとめちゃくちゃ酷いこと言うなよ!
そりゃ、可愛くもないし綺麗でもないけどさ……
「って素通りかよ!」
冷たすぎるだろ、お前!
あれか!?名前呼べって迫ったから怒ってんのか!?
そこまで名前呼びたくないのかよ!?
「いくらなんでも泣くぞ…」
やべ、本気で涙が出てきた。
飲み屋のドラゴン
(これでも一応女だぞ!)