そして私は旅に出る!
林の中を歩きながら、次々と敵を倒していくジャーファル。
赤い紐のついた暗器のようなもので戦う彼に一言言いたい。
「そのとなりのやつ誰だよ!」
そのとなりのやつとは、ジャーファルの剣を奪い、イケイケでその剣を振るっている男のことである。
ジャーファルは不思議そうに首を傾げた。
「貴女には紹介したはずですけど。彼は──」
「シャルルカンでしょ!?知ってるよ、そんなことは!」
宿に泊まって、さあ出発だとジャーファルのもとにいったら、となりにいたのが彼、シャルルカンだった。だが……
「私、君の職業は僧侶だって聞いたんだけど」
「まあ、そうっすね。俺は僧侶っす」
なんで僧侶が杖投げ捨てて剣を振り回してるんだよ!
「別に良いじゃないすか?僧侶が剣使っちゃいけないってどこにも書いてないんだし」
そういう問題じゃないと思うのは私だけか。
「君は剣を持ってるときのほうが生き生きしてますもんね」
「ですよね、ジャーファルさん!俺もそう思います!」
…私だけだった……。
二人は昔からの知り合いらしいが、なんだこの母子的な雰囲気!?
母親に誉められて嬉しい息子と慈愛に満ちた目でみる母親。
……少し羨ましいとか思ったのは秘密だ。
「そういやジャーファルさん。ジャーファルさんとフィレアさんってどういう関係なんすか?」
「関係?」
「どうしてそんなこと聞くのです?」
「だって二人、仲良いし」
「良くありませんよ」
…即答ってけっこう傷つくんですよ?
「そうなんすか?でもジャーファルさん、フィレアさんのこと名前で呼ばないし」
言われてみれば。
「……特に意味はありません」
「だったら名前呼んでくれてもいいじゃん、ジャーファル。初っぱなから呼び捨て宣言したんだし」
「まだ根に持ってるんですか」
「ええ持ってますよ。悪いですか」
「悪くはありませんけど」
「じゃあ、呼んで?」
「……何を」
「名前だよ。な、ま、え!」
ずいっと迫ったら高速で顔を逸らされた。
あのジャーファルが困ってる!レアだ!!
よし、絶対こいつに名前呼ばせてやる。困らしてやる!
「ジャーファルさん、フィレアさん、そろそろ行きません?」
「空気読もうよ、シャルルカン」
こいつKY!KYすぎるだろ!
「そうですね、そうしましょうか」
「ちょっと待てジャーファル!私の名前を呼べ!セイ トゥ フィレア!!」
そそくさと歩き出すジャーファルを追って私も歩き出す、が。
「シャルルカン!せめて自分の杖は自分で持とう?」
なんで私がこいつの(元)武器を持たなきゃならない!
邪魔だし、しかも見掛けによらず重いんだよ、これ!!
「でも俺これあるし」
剣を上げてみせるシャルルカン。
「いやそれジャーファルのだし!返しなさい」
「だってジャーファルさんがいいって」
「ジャーファルゥゥゥ!?」
お前勇者だろ!僧侶に剣与えてどうすんだよ!?
「欲しいって言われたので」
「欲しがる僧侶も僧侶だけどあげちゃう勇者も勇者だよ!?」
「そもそも私、剣はちょっと…」
最初は勇者らしく剣を使って戦っていたジャーファルだが、今のスタイルのほうが戦いやすいらしい。軽やかに飛び回っている。
「でもシャルルカン。自分の物は自分で持つ!私が持つ義務はない!」
「サポーター」
「うぐっ!」
そうだった…
私サポーターだったんだ…
「じゃ、お願いしまーす」
「ええー…」
重いんだよ、これ〜
持ちたくないよ〜
「グダグダ言わないでくださいよ。フィレアさんサポーターなんだから」
「君に言われたくない!僧侶のくせに剣なんか使っちゃってる不良の君に!」
「着きましたよ」
「は?」
シャルルカンと言葉の応酬をしていたら、前を歩いてたジャーファルが振り返った。
「着いたってどこに」
「飲み屋っすよ」
「あれ?言ってませんでしたっけ?」
「聞いてねぇよ!!」
なんだよ飲み屋って!まだ真っ昼間だぞ!
「友達がやってて。仲間にしちゃおっかなって思ったんで」
「友達?シャルルカンの?」
「そうっす。俺と、ジャーファルさんの」
「え!ジャーファル友達いたの!?」
「なに驚いてんですか」
「だって、めっちゃいなそう…」
イメージ。あくまでイメージだけど。
「シャルルカンだって友達ですよ」
「いや、二人はどっちかっていうと親子とか母子とか…」
「だれが母親だって?」
「ひいっ!」
怖いよジャーファル!笑顔が黒い!!
「い、いや…先輩・後輩って感じだなーって」
「……まあ、実際そうですけど」
私だったら嫌だなーこんな先輩いらない。
「今、失礼なこと思いましたよね?」
「滅相もございません!!!!」
なんだよお前!エスパーか!?
「ジャーファルさん友達少ないっすもんね」
「余計なこというんじゃねぇ」
笑顔のシャルルカンに黒い笑顔で返すジャーファル。シャルルカンの無邪気な笑顔が一瞬にして消え失せる。
「と、取り合えず、入るんだったら入ろうか。入り口で溜まってちゃ迷惑だし」
まだ昼間だけど。
「それもそうですね」
「酒ー!!」
素直に頷いたジャーファルはともかく。
「いや、飲ませねーよ!?あっ、こら待て!シャルルカン!!」
意気揚々と暖簾をくぐるシャルルカン。彼は本当に僧侶なのだろうか。
「はあ…」
「何やってるんですか?行きますよ」
「はーい」
これから紹介されるであろう人たちは普通の人であってほしい。切実に。
強く願いながら真っ赤な暖簾をくぐった。
不良僧侶
(お前はもはや僧侶じゃない!)