働き過ぎは要注意


目の前には、エミリの背丈程もある書類の山、山、山。
そのなかの一つに最後の書類を置き、エミリははあっと息をついた。


「お、終わった…」


地獄の月末精算、これにて終了。

あとは上司であるジャーファル様に書類の確認をしてもらえれば家に帰れるのだ。
やっと床以外の場所で寝れる!

よく頑張った、私。よく乗りきった!

自分を褒めちぎっていると、後ろからものすごい音が。

ガラッ!ドシンッ!!
バサバサバササァッ!!

反射的に振り返り、後悔した。床に散らばっているのは大量の書類。そこにあったはずの書類の山はどこにもない。

ああ…やってしまった…

スペースが少なく置く場所がないため、書類はうず高く積まれ、結果的に一人一回はその書類を崩すことになる。因みに私は昨日したばっかりだ。

だけど、おかしい。

今この部屋にいるのは昨日ばらまいた際に駄目にした書類の書き直しをしていたエミリと、ジャーファル様だけだ。

でも、私はやっていない。ということは……。


「え!?」


もしかして、ジャーファル様!?
というかさっきなにかが落ちる音がしたような…。


「ジ、ジャーファル様!?ご無事ですか!?」


慌てて駆け寄るエミリの僅かな震動でも、奇跡的なバランスで立っていた書類の山には致命的だったらしい。あちこちで雪崩がおきている。
だが、そんなことを気にしている暇はない。

最悪、書類の中に生き埋めになっているかも…!

危機感を募らせたエミリがジャーファル様の机につくと、「ううっ…」という呻き声が。


「ジャーファル様!?大丈夫ですか!?」

「エミリ…?」


どうやら椅子から落ちたらしいジャーファルを支えながら、どうしたのかと顔を覗き込むと、なぜ今まで気づかなかったのか不思議なほどやつれていた。

元々白い肌は青白く、目は真っ赤に充血している。少しも寝ていないからか熊はないが、もう全身ボロボロだ。


「ジャーファル様!何日寝てないんですか!?」

「1日…」

「嘘言わないでください!本当は!?」

「本当は…5日、かな……」

「はあああ!?私言いましたよね!?5分でもいいから寝てくださいって!!」

「言われた…ような…」

「ようなじゃなくて言ったんです!」


眉を寄せてうるせーよ的な顔をしているが、知ったことか。
今日倒れたのだって言ってしまえば自業自得だ。


「でも……」


今にも消えてしまいそうな声。
ジャーファル様を見るとうっすらと笑顔を浮かべている。


「ご飯は、きちんと食べましたよ…」


偉いでしょう。とでも言いたげな顔。
そんな当たり前のことで誉められると思っているのか、この人は。


「………偉いですね。良くできました」


それでもこうして誉めてしまう私は、やっぱり甘いのかな。


「エミリ〜、膝枕、してくださいよ〜」

「ちょ、ジャーファル様…」


誉められて気を良くしたのか、となりに座り込んでたエミリの膝に頭をのせようとするジャーファル様。あっという間に頭を乗せられ、数秒たたずに眠ってしまった。

まったく。人の気も知らないで。


「あー、どうしよう、この書類…」


………まあいっか。

散らばっている書類はとりあえず横に置いとき、壁に背を預ける。

私も寝ちゃおっかな。

ジャーファル様の綺麗な銀髪を撫でながら、瞼が落ちてくるのを感じる。

それに逆らって、もう一度ジャーファル様の顔を眺める。

天使のような顔をして寝ているジャーファル様の鼻をつまみ、眉を寄せた顔を見てくすりと笑う。


「おやすみなさい。ジャーファル様」


せめて夢の中では、ゆっくり休んでくださいね。

そうしてエミリも、夢の世界に旅立っていったのだった。




後日、その状況を目撃したシンドバッド王にジャーファル様はさんざんからかわれましたとさ。

(いやあ、まさかあのジャーファルがなあ)
(シン!いい加減にしてください!)
(極限までいくと、いつもジャーファル様は甘えたになるんですよ。知らなかったんですか?シンドバッド様)
(ちょっとエミリ!って、え、いつも…?)
(ええ、いつもです)
(ほほう)
(〜〜〜〜っ!!!!仕事しろ!!)



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