ジャーファルは私にとって、兄の様な人だった。
家が近所だったせいか、さも当たり前の様に一緒に遊んでいた。
学年は一つ違えど、幼稚園に小学校も中学校も高校も全部一緒だった。
高校になると私は周りから「ジャーファルの彼女」と言われるようになった。ジャーファルが満更でもなさそうだったと聞いて、私も嬉しかった。
このまま恋人同士になれたら良いな、そう思っていた。
だけど私が高校一年生の二学期の時、事態は一変した。
「…留、学…?」
留学する。突然言われたその言葉をゆっくりと理解する
海外へ行く…ここからいなくなる。
「い、いつ帰ってくるの…?」
「短くて五年位だそうです。#名無しさん#、見送りに来てくれますよね?」
…何でそんなにも嬉しそうなの?
「も、もちろんだよ!」
とっさに作り笑いをした。本当はそんな余裕何てないのに…
その日の私は何も言えず、ただただ時間だけが過ぎていった。
― 3日後・空港
今日で私はジャーファルから離れてしまう、そう考えるだけで泣きそうになった。
「#名無しさん#!」
あぁ、これで最後なのかな?
「良かった、来てくれて」
「…ジャーファル」
言おうとした。頑張れって、元気でねって…でも
「#名無しさん#!?」
「あ、れ?」
目の前が霞んで、頬に涙が伝わっていた。笑わなきゃいけないのに、止まらない。
「離れるの嫌だよぉ…!」
「…#名無しさん#」
そう言ってジャーファルは、しゃがんで私の顔を見上げる。
「一つだけ、お願いを聞いて下さい」
ジャーファルは私の手を取り、真剣な表情で言った。
「帰って来たら、私と結婚して下さいませんか?」
「ぇ…」
それを聞いて、私は一瞬時が止まったのかと思った。今のは幻聴かと疑うぐらいだった。
「…本当?」
「私がここで冗談を言うと思いますか?」
そう言いながら私の薬指に綺麗な指輪をはめていく。
「…じゃあ、また」
また泣いちゃいそう…でも、今度はちゃんと言える。
「絶対、待ってるから!!」
少し大きな私の声が響いた。でもアナタは笑顔で、
「…はい!!」
…ジャーファルは行ってしまった。だけど、私は今も彼と繋がっている。
そのことは、私が着けるにはまだ少し早かった綺麗な婚約指輪が証明してくれる。