「あ、ねこ…!」



シンドリアの何でもない昼下がり、私は一匹の猫を見つけた。

私は魔導士だが、だからという訳でなく、ただ本当に猫が好きなのだ。

仕事であるヤムライハ様の手伝いは終わってしまったので(正確にはヤムライハ様が寝てしまった)猫を追いかけることにした。

そっと猫のあとをついていくと中庭に来ていた。

そして、猫が向かう木の根元にはジャーファルが…私の大好きな恋人が…いた。



(なんか気持ちよさそうに寝てるな…

昨日徹夜だったみたいだし、大丈夫かな。

あ、でも、ねこが…)



意を決してジャーファルの隣にいる猫にそろそろと手を伸ばした。

すると…

ジャーファルが目を覚ました。



「「あ。」」



私の体勢は中途半端で、なぜかジャーファルを襲おうとしているみたいだった。

当然彼は驚いているし。

更に…猫に逃げられた。



「えっと…これには深い訳がありまして…その、ねこおっかけてて…でですね…」



必死に言い訳する私をみてジャーファルはくすくすと笑った。



「まだ夢を見ているのかと思いましたよ。」

「夢みてたんですか…起こしてしまってごめんなさい。」

「いいですよ、だって…」



ジャーファルは私の耳元に顔を近づけて、言葉の続きを紡(つむ)いだ。



『#名無しさん#の夢を見てたんですよ。』



『最近、ずっと会っていなかったから。』



『せめて、夢だけでも会いたいと思ってて。』



『でも、そんな必要ないですね。』



「#名無しさん#が、会いに来てくれたんですから。」



最後の言葉だけ、やけにはっきり聞こえた。

彼の声が聞こえるたびに、暖かい気持ちになる。

こんな彼に恋して、思いが伝わって、そして、一緒にいられて、本当に私は幸せ者だな。

そんなことを考えていたとき。



「時間があるなら、ここで寝ていきませんか?」

「え、まあ暇ですけどいいんですか?邪魔になりません?」

「そんなわけないじゃないですか。

それに、今貴女が行ってしまったら…やっぱりこれが夢みたいで…」

「大丈夫です!」



ジャーファルに抱き付いて言う。



「私は、ここにいますから。」



そういって微笑んだら、ぎゅっと抱き返された。



「そうですね。

#名無しさん#は、夢なんかじゃなくて、確かにここにいます。」



木漏れ日の下で、幸せをかみしめる午後―…





『そう言えば猫は良かったんですか?』

『はい、だって…ねこよりも大好きなジャーファルに会えましたから。』

『嬉しいこと言ってくれますね。』

『本当ですよ?』


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