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クリスマスSP(真選組より愛を込めて)近藤[1/1]

「近藤さん…、一度で、いいんです」

「え?」

「…クリスマス、ご一緒していただけないでしょうか?」

驚いて見下ろした彼女の目が困ったように揺れていた。

その真意がわからなくて、言葉が出てこないオレに。

「やはり、お忙しいですよね。真選組だってクリスマスパーティーなんかもあるでしょうし。それに…お妙ちゃんのとこ行かなくちゃですものね」

やっぱりいいです、と断って逃げ出すようにオレの横を真っ赤な顔で走り抜けようとした花奈さんの腕を握り、留める。

「…オレなんかでいいんですか?大事なクリスマス」

「…近藤さん以外の誰にも、頼んでません…」

儚げな笑顔でオレを見上げた花奈さんに思わずドキリとした。

…多分、オレより一つか二つ年上で。

屯所の側にある定食屋の女将。

早くに旦那を亡くして未亡人となってからもずっと店を一人守ってきた彼女とはもうずっと昔からの付き合い。

昼飯など食べに行けば作りすぎたんで、とオレの好きな小鉢をくれるほど仲良かったけれど。

何年も付き合いのある彼女にまさかクリスマスを一緒に過ごして欲しいなどと誘われるとは思っても無かったのだ。

そりゃァ、美人だし気立てもいい、優しいし、愛想も抜群。

が、妙以外の女をそんな風に見たこともなかったので。

初めて間近で見たその笑顔に胸が高鳴ったのである。

「予定なんかありません!どこに行きましょうか?」

本当は多分、屯所で仲間と飲み交わし、そのままの勢いで『来るな』と言われているすまいるに雪崩れ込んでやろうと目論んでいたのだが。

「…よろしいので?」

尚も不安そうな花奈に微笑んで頷くとようやっと花奈も笑顔を返したのだった。






「花奈さ〜ん!!!」

「こ、近藤さん?!もう、いらしてたんですか?」

花奈が驚いたのも無理もない。

まだ待ち合わせ予定時刻まで30分もあったのだから。

「花奈さんこそ早いですよ!!…今日のお着物、とても花奈さんに似合いますね」

いつも店に立っているような地味な絣の着物ではなく。

凛とした白地の着物、裾に牡丹の赤い花があしらわれていて。

花奈の美しさに拍車をかけていた。

「…お恥ずかしい」

赤らんで俯く花奈に手を差し伸べると、おずおずとその手を握り返してくれる小さく冷たい指先。

温めるように優しく握り締めて歩き出す。

こうして並んでると、他のカップルのようにきっと自分たちも恋人に見えるのかもしれない。

そう思うと近藤も嬉しさと気恥ずかしさで自然と頬が赤らむ。

「お寒いですか?」

その様子に花奈が気遣わしげに首を傾げて、ちょっと待ってと少し大きめのボストンバッグから取り出したのは。

「…オレに?」

「…ええ、気に入らなければお捨てになって下さいね」

花奈の手編みだろう紺色のマフラー。

「ありがとうございます!!」

嬉しくてそれをすぐに首に巻くと温かい。

質のいい毛糸のようですぐにヌクヌクと首元を温めてくれて。

益々赤くなる。

「あ、あの。実はオレも持ってきたんです」

「え?」

「どんなのがいいか、迷ったんですけど…」

小さな長細い箱を懐から出して花奈に手渡す。

遠慮がちに受け取り開けた中には。

銀色に光る簪。

雪の結晶のような模様に宝石が散りばめられていて。

「こっ、こんな高いものっ」

受け取れない、と返そうとする花奈に近藤は全然、と首を振る。

「嬉しかったんですよ、オレ。今まで生きてきて初めて女性にクリスマスを誘われたんですから。だから、その記念に」

花奈の美しさに似合いそうなものをとずっと捜し求めたもので。

花奈の手からそれを奪うとその結い上げた髪にそっと挿した。

「ん、やっぱりお似合いです!!」

ガハハと笑う近藤を見上げた花奈の目が一瞬潤んでいたような気もしたけれど。

「ありがとうございますっ!!」

花奈は何度も何度も頭を下げた。




ただ一緒に流行りのデートスポットを歩くのが今日の予定だった。

午前中にダイバで大きなクリスマスツリーを見て、海の見える店で食事し。

午後からはシブヤンのパンケーキの店でまったりとカフェ、そのまま移動したのは夕暮れ時の空ツリー。

紫とオレンジのコントラストを醸す夕暮れを見ながら。

繋いだ手を離さずに。

「さて、夕飯は何にします?お昼はイタリアンだったから、中華?フレンチ?それとも和食にしましょうか?花奈さんは何が好きですか?」

見下ろした先の花奈は首を横に振る。

「…もう、十分です、近藤さん」

「え?」

「一日本当に楽しかったです」

「花奈さん、あのっ」

「そろそろ、すまいるが始まるお時間ですよ?妙さんのとこ行かないと」

ね?と微笑む花奈に胸が苦しくなる。

「…どうし、て…?」

「今夜の便に間に合わなくなるんです、今、帰らないと」

「…どこに、行く気で…?」

「実家に…帰ります」

「だ、だってお店はっ」

「…昨日で店じまいさせていただきました。今までご贔屓にしていただき本当にありがとうございます。真選組の皆様にもそうお伝えくださいますか?」

「っ、なんでそんな急に?!どうして一言も相談など」

言ってか後悔したのは。

花奈の店で、一方的に妙の相談をしていた自分がいたことだ。

「見合いの話があるんです、けれど実家の方にいる人とで。…もう決まってるようなもんなんですけどね、相手には小さなお子さんが2人いて。前妻さんを亡くした方で私のような人間を探していたみたいで」

突然の花奈の話に驚くばかりで声が出ない。

「近藤さん、今日は本当にありがとうございました、すごく楽しかったです」

「…、あのっ!!!」

「はい?」

「何で今日、オレを?!」

「…何故、ですかね?この話をいただいてから、遣り残したことを考えていたら近藤さんの顔が浮かんだんです。私がいなくなったら妙さんの相談は誰にされるんだろう?心配だわ、って…。けど、同時にあんなに近藤さんに思われてる妙さんのこと羨ましいな、って…、気付いたんですよね」

「…それはっ…」

「ええ、好きでした。けれど、お返事などいらないんです。近藤さんには是非妙さんと幸せになっていただきたいのと。私には今日の思い出があれば、それだけで…」

近藤を見上げるその花奈の顔には微笑みが溢れていて。

「お元気で」

ペコリと近藤に頭を下げて。

繋いだその手を離して踵を返して歩き出す花奈に。

…どうして…?

動かない自分の足に自問自答した。

けれど。

どんどん小さくなるその背中が人込みに消えて。

自分の手からも温もりが消えていくのに気付いた瞬間。

走り出していた。




急げ、急げっ!!

間に合ったら、呼び止めてまずは。




メリークリスマス!

どうか今宵、オレの側で…。

その先はこれからゆっくり温めさせて…?


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