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クリスマスSP(真選組より愛を込めて)沖田[1/1]

「よォ」

見慣れた後姿にそう声をかけると。

ビクンと身体を竦ませて走り去る花奈。

「…何でィ」

また、だ。

最近、ずっとこうだった。

街で花奈を見かけると、その度こちらの気配を察知してか逃げていく。

前はもうちょっと違ったはずだ。

からかう度に泣きそうな顔しながらも、オレに歯向かってきて。

それが面白ェから、構ってた。

…無視かよ。

花奈の走り去った方向とは間逆に背を向けて歩き出す。






『またサボリですか?土方さんに叱られますよ?』

『サボってやせんぜ?豚の保護してまさァ』

『ぶ、豚って、私のことですか?!』

『ブヒってブヒブヒブヒですか?!ちゃんと言いやがれッ、ブヒブヒしか聞こえねェや』

『ブヒブヒなんか言ってません!!ブヒブヒ言ってるのは沖田さんじゃないっ!!』

『ほら見ろ、まァたブヒブヒって』

『だからァッ!!!』

ムキになるその顔が見たくて。

なのに突然無視されるようになった、とか。

…オレの何がそんなに気に入らねェんでィ。



万事屋の旦那の下で働いていて。

日中は万事屋にいるらしくて。

いつの間にかその真下まで歩いて来ていて見上げたあの看板。

「あれェ?どうしたの?総一郎くん?」

「総悟でさァ」

振り向いた先にいたのは、旦那、そして花奈。

旦那の影にサササッと隠れるその花奈の姿にイライラとする。

「旦那、今夜は豚料理ですかィ?」

「え?あ、ねェねェ、総一郎くん」

「総悟でさァ」

「どっちでもいいけどね?あんま花奈に豚豚言うの止めてやってくんねェ?」

銀時の言葉に花奈は「銀ちゃん、止めて」と旦那の袖に縋り首を振る。

気に入らねえ。

「豚は豚だろィ、なァ?」

花奈のその態度にイライラしながらそう話し掛けると。

泣いているのか、と思った。

一瞬、こちらに向けられた目が泣いているように見えて、怯む。

目が合った瞬間に花奈はその場を逃げ出すように今来た道を走っていく。

「ったく、あのさァ総一郎くん。花奈がね、飯あんま食わねェのよ、最近」

「…は?」

「原因聞いたらさ、豚になりたくない、って。ダイエットしてるって言うんだよね?わかる?」

「…何でっ?!」

「そりゃ、毎日逢う度に豚豚言われてたら傷つくんじゃねェの?」

…傷ついてた?

走りだす沖田の背後で銀時が叫ぶ。

「今日はー、クリスマスだしィ、何か美味いもんでも奢ってやってくれよォ?」

…ムキになってケンカしてるのが楽しいんだって、そう思ってた。

傷つけてたなんて知らなかった。

オレのこと避けてたのは、本当に嫌だったから、か?

走って花奈を探し回る。

花奈がよく行く場所なら、把握している。

だって、そこに行けば花奈がいたから。

本屋の角。

八百屋の前。

川縁、団子や、そして公園…。

ぼんやりと俯いてブランコに腰掛けている花奈の横。

空いているブランコに腰掛けた。

「…花奈」

そう呼んだのがオレだと気付いて驚いていて。

「逃げないで下せェ!!」

また逃げるだろう、と釘を打つと花奈は困った顔でそこに留まってくれていた。

「…体型のこと言ってんじゃねェやィ」

「え?」

「だから、豚って言ってたのは花奈の体型のことじゃねェんだって」

「…うん、知ってる」

「え?!」

「え?」

…旦那ァ、話が違いまさァ。

「ただ、嫌だったんです、沖田さんに豚豚言われるの。だから、絶対に豚に見えないようにダイエットしてたのは確かですけど…、沖田さんがそんな意味で言ってたんじゃないってのはわかってます」

「…オレは」

「目障りだから、でしょう?」

「は?!」

何でそうなる?!

「…逢う度に言われてたら気付きます、もん。嫌われてるのかな、って。そう思ったら私と顔合わせるの本当は嫌なんだろうな、って」

「嫌ってなんかねェや…。むしろ、嫌ってんのは花奈の方だろィ?!」

驚き、自分を見る花奈の目は真っ直ぐで。

ひどくキレイだ、と思ってた。

吸い寄せられそうなその目に…。

逢いたくて、ただ逢いたくて。

逢ったらどうしても裏腹になる自分が抑えられなかったんでィ。

「沖田さんのこと、嫌いになりたかったです」

「あ?!」

「嫌いだったら楽、でした…。」

「?!」

「気付きませんでした?私の気持ち!!沖田さんと一緒にいるの楽しくて。でも、どこかで女の子として見られたいな、ってずっと思ってて。…そしたら豚って言われてるのが段々辛くなっちゃって…、アレ…」

言いながら泣き出した花奈の前に立って。

グシャグシャな泣き顔を隊服の袖で拭う。

「…汚ェ面晒すのは止めてくだせェ」

「…晒したくなんかないですよ。もう帰ります!!」

立ち上がった花奈が。

「…沖田、さん?」

目の前が真っ暗になったことに気付く。

黒いそれは、沖田の隊服。

つまりは沖田の胸の中で…。

…何で?

「…本物の泣き顔なんて晒すんじゃねェや」

「っ、誰のせいで」

「…豚、はただの愛称でィ。…呼びやすかったから」

「え?!ちょっと何それ?!呼びやすいって、だからって」

「楽しかったんでィ、そう言えばムキになってかかってくる花奈と話してんのが」

「…、」

「今日は何の日か知ってやすか?」

「…クリスマス」

「…飯食いやしょう?ダイエットなんか止めて。で本格的に豚になってくだせェ」

「また豚って言うし!!」

オラと引っ張るその手に抗う花奈に。

「オレァ、嫌ってなんかいやせん。むしろ逆でィ」

ポカンと口を開けた花奈に振り返った沖田はもう一度手を差し伸べる。

「何でも好きなもの食いやがれ、たっぷりオレ専用の豚にしてやりまさァ」



ひん曲がったわかりづらい愛情いっぱいクリスマス♪


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