Heavenly days!番外編[1/1]
*注意
長編「Heavenly days!」番外編です。
元もとのデフォ名で読みたい場合お手数ですが「中山 和希」と変換下さい。
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真夜中、人の気配に目が覚めた。
殺気立ってるわけじゃなく、かといっていつものように朗らかなものでもない。
よく知ってるはずのその気は。
何故か今日は乱れていて酷く悲しい色をしているようだった。
「どうしたんでィ?」
アイマスクをずらし枕元でオレを覗き込むその顔を見上げれば。
月明りの下で頬を濡らしていた。
「…何があった?」
起き上がることなく伸ばした指先はとめどなく流れる涙に触れて。
「沖田っ、沖田ぁっ」
桜木はよく見ると目が虚ろで。
…もしかしてコイツ寝ぼけてるのか?
それを証拠に。
声をかけてもただただ泣きじゃくるだけで。
子供みたいな泣き顔が胸を抉って思わず桜木を布団の中に引き込んだ。
「沖田っ、」
「枕元で泣かれてちゃァうるさくって寝れやしねえ」
泣き顔を隠してしまうように抱きしめるとオレの胸に耳を押し当てて。
「…生きてる、ね」
嬉しそうに目を細めて笑ったかと思う間もなくまた泣き出した。
「生きてるんだよね?!沖田!!」
「生憎まだ生きてるみてえだな」
オレのその言葉にようやっと。
「夢を見たの」
そう一言呟くとオレにギュッとしがみつく。
ああ、そうか。
「オレが死んだ夢でも見たのか?」
笑いながらその夢を言い当ててやると。
「だって沖田がバカだからっ、私は大丈夫って言ってるのに、なのに私を庇ってっ」
泣きじゃくりながらオレを掴む腕が揺れている。
「お前さっきオレに死ねって言ったじゃねえか」
ついさっき、そう寝る前のことだ。
近藤さんが毎年開いてくれるオレの誕生日会。
いい年してんだからそろそろ止めてくれって言っても毎年開かれるそれに。
桜木が参加するのは二度目。
初めての年は近藤さんの裸踊りに目を丸くして卒倒してやがったが。
今年はそれが始まる予感がしたのか、とっとと寝るために席を外そうとしていて。
「オイ」
追いかけてってそう声をかければ困った顔でこっちを振り向いた。
「もう寝るのか」
「ゴメン、別に沖田の誕生日を祝うのがイヤだってわけじゃなくて」
「わかってらァ、が」
「ん?」
何?と首を傾げる桜木に。
「まだお祝い貰ってやせんけど?」
…、こんなこと言うつもりで呼び止めたわけじゃなかった。
ただもう少し、もう少しだけ今夜は一緒にいて欲しいとか。
バカか、オレは。
「何が欲しいのかわからなくて、さ。こんなんでゴメン」
誕生日おめでと、沖田。そう言って桜木がポケットから出したのは御守り、御守り、御守りと御守りと、御守り。
「…何でィ、こりゃ」
ポケットの中で絡み合った御守りたちを掌に載せられて桜木らしすぎてため息がでた。
もっとこう、もう少しぐれえ、色気っつぅもんがねえんだろうか。
「ホント、ゴメン。私こういうのセンスなくて」
真っ赤な顔して焦っている桜木。
何だかそれを見てるウチに困らせたくなって。
「ホンット、センス無さ過ぎでさァ。悪ィと思うなら他のもんにしろィ」
「他の…?」
「例えば、」
不思議そうな顔をした桜木の。
「こういうの」
「!!!!!!」
胸を思い切り鷲掴んだ瞬間に。
頬に走る雷のような衝撃と。
「死ね!!バカ沖田っ!!!」
涙目で真っ赤に怒りながら走り去る桜木。
…やっちまった。
「ってー…」
口の中で広がる鉄の味。
どんだけ力強ェんだよ、アイツ。
掌に残る御守りの塊。
本当は気持ちが嬉しかったってのに。
「死ね、なんて本気で思ったことないもん」
「どうだかねィ」
グズグズと鼻を啜る桜木。
オレのために多分泣いているんだろう桜木。
「思ってないって言ってるでしょ!!!だから何が何でも絶対死ぬな、沖田!!私があんたの背中を護るから」
「…そりゃどうも、お前に護られるようになっちまったらオレもいよいよの時だろうけどねィ」
そう言うと桜木が悔しそうにう〜っと唸っているから。
「お前置いて死ねるわけねェだろィ」
聞こえないように独りごちたつもりが、静まり返った部屋の中で妙に響き渡ってしまって。
今のナシと取り消す前に。
オレを見上げた桜木が。
泣きながら笑う。
大きな口を開けて泣き笑いしてる桜木が。
「ブサイクでさァ」
愛しくて。
有無を言わせぬようにそのまま唇を塞ぐ。
二度目の、キス。
知らねェだろ、お前は。
一度目のあれだって事故なんかのつもりはなかった。
「っ、ん」
逃げようとする身体を抱きしめて息が止まるほど、休ませてはやれねえほどに。
その内抵抗を止めた桜木がクッタリと力が抜けたようで
「花奈…」
その先にと手を進めながらもう一度唇を塞ごうとして。
「…」
ため息が出た。
寝ながら笑うその平和な寝顔に無性に腹が立って。
「人の気も知らねえで」
ギリッと頬を抓ると眉間に皺を寄せたバカな女を。
「起きたら覚悟してくだせェ」
その温もりが離れないように抱き寄せた。
翌日朝。
「死ねっ!!マジで死ねっ!!!!何の嫌がらせだよ、クソ沖田ァァァァ!!!!!」
ギャァァァァとわめく声が聞こえたかと思うと。
オレの鳩尾に落とされたのは多分踵落し。
「ッ!!!!!」
痛みにのたうち回りながら目を開けた向こうで。
真っ赤な顔で泣き出しそうに怒る、全く夕べと同じシチュエーションで部屋から出ていく桜木の姿。
あの分じゃ昨夜のことなんざ何も覚えていやしねえんだろうけど。
…、まァいいか。
キスの合間に聞こえた気がしたから。
『好き、だよ、』
思い出してまた目を閉じる。
まだ布団の中に残る桜木の温もりを感じながら。
2016/7/8
すっごい短いんですけれど。
沖田ァァァ!!誕生日おめでとうです!
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