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今君を想う[1/4]

「勲ちゃん、勲ちゃ──────ん!!」

廊下を走る音、そしてオレを呼ぶ声。

思わず頭からバッと布団を被って寝たフリするけど。

「勲ちゃん?!大丈夫?!今日こそ打ち所悪くてお陀仏になっちゃったんじゃ…」

寝ているオレの布団を揺すり大声で泣く声に。

「っ、いや、生きてる!!まだ生きてるからね?!」

慌てて起き上がると、そこには顔中涙でグシャグシャにした花奈ちゃんが。

「生きてたー」

オレの胸の中にダイブしてくる。

「また、こんなにいっぱい怪我して」

泣きながらオレの頬に手を伸ばして傷跡を擦ってくれてるらしいけど。

ちょ、花奈ちゃん、毎度ながら距離近いから!!

めちゃくちゃ近いからね?!

「手当て、しようね?」

既に花奈ちゃんの手にはいつもの応急処置道具。

オレの膝の上に座ったまんまの手当ては毎朝の日課。

「…、ちょっとぐらいお妙さんも加減してくれたらいいのに」

むうぅと膨れ面でオレの傷一つ一つを消毒してくれる優しい手。

「いやァ、お妙さんは照れ屋だからさァ、こういったことでしか愛情表現できないっていうか」

「どうしてお妙さんなの?こんな目にあっても尚」

ああ、やっぱ毎朝不毛なこの会話。

そして。

「オレのケツ毛まで愛してくれる人なんざ、お妙さん以外いないからさー、ガーッハッハー」

冗談を飛ばすと。

「私なら勲ちゃんのケツ毛なんかリボン結んであげたくなるぐらい愛しいんだけど」

ハイ手当て終了─!!と最後に大きなガーゼを額のコブにペンっと貼るのは腹立ち紛れだろうけれど。

「嫁入り前の娘がケツ毛とか言っちゃいけません!!」

「先にケツ毛言ったの勲ちゃんでしょ!」

「ホラァ、また言う!!ダメでしょうが!!花奈ちゃんがそんな下品なこと言っちゃ!!」

だって勲ちゃんのが先に、とむくれるけどさ。

オレにとっちゃ君は無垢な存在そのもので。

いつまでも大事な妹、そう思ってるんだから。




この春から屯所が騒がしくなったのは花奈ちゃんのせい。

春先に実家から電話が来て、オレは慌てて帰省した。

実家の隣に住んでいたいつもオレのこと可愛がってくれたおじさんが亡くなったそうで。

ずっと会えなかったおじさんに最後のお別れと、そして気がかりがあったからで。

『花奈ちゃん?』

葬儀の終わった後ふと姿を消したおじさんの一人娘花奈ちゃん。

どこにいったのかと探したら昔よく遊んでいた山寺の階段にポツンと一人腰掛けてシクシクと泣いていた。

おっかさんを早くに亡くした花奈ちゃんにとっちゃ、おっとさんは唯一の家族で。

だけど葬儀の間は涙一つ零さずに気丈に振舞ってたというのに。

隣に腰掛けて花奈ちゃんの頭を撫でると、驚いたように顔を上げて。

『勲ちゃんっ』

オレにしがみついて泣き出した。

武州から旅立った後も何度も花奈ちゃんはオレに文をくれて、実家の様子や近況を知らせてくれた子で。

7つも年下の彼女はオレにとっては本当の妹のような存在で。

そんな彼女が今まで見たこともないほどに泣きじゃくっていて。

『勲ちゃ…、いなく、なっちゃった、よ』

『うん、うん』

一人ぼっちになってしまった花奈ちゃんの心はきっと孤独で心細くて。

『…勲ちゃん、帰らないで…』

ギュッとオレの服を掴む細い指、頼りなさげな細い肩。

どうにもこうにも居たたまれなくて。

『花奈ちゃん、オレは帰らなくちゃいけないんだよ。待ってる人たちがいるからね。でもさ、花奈ちゃんを一人にしておくのはオレだって辛いから。いっそ一緒に江戸に出ないか?』

驚いた顔で花奈ちゃんはオレを見上げていて。

『勲ちゃん、と?』

『そ、屯所で女中でもして暮らしてみないか?あそこには総悟やトシもいる、花奈ちゃんの見知っている顔もたくさんあるぞ!』

『迷惑じゃ、ない?』

『あるわけないじゃん!!だって花奈ちゃんはオレの家族でしょ!!だから』

おいで、立ち上がって伸ばした手を。

コクンと頷いて花奈ちゃんは立ち上がる。

そうしてこの春、花奈ちゃんは武州からここにやってきたんだ。


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