君に届け!1[1/4]
「…で?」
「開き直ってる?」
目の前にいる女のその目は、またいつものようにオレに向かって。
軽蔑の眼差しと怒りをぶちまけて来る。
可愛い顔が台無しだってえの。
「開き直ってるわけじゃァねえな」
「は?!」
「…だって浮気してたわけじゃねえって、ただ帰り一緒に帰ったてだけで」
「待ってたんだよ?…一緒に帰ろうって言ったじゃない、用事もあったし」
「いや、それはホントゴメン!忘れてた」
「はァァァ?!」
ヤベッ、更に怒らせちまった。
瞳いっぱいの涙、いつものようにそれを拭って抱きしめてやれば。
事は簡単に納まっちまったんだろうな、なんて思ったって。
そんなのこの時のオレにゃァできなかった。
ただ…何でいつも泣くの?
ほんの…ほんのちょっとオレだって、たまにゃ違う女の子と並んでお喋りしてみたかったていうか?
まぁ、その…浮気、じゃなくって。
浮気なんかじゃねえよ!!!断じて!!
が、たまにくるその本能に付き従うとだ。
こうして、お前を泣かせてるってわけで…。
自分が悪いくせに。
面倒クセーとか、思っちまって。
つい、…。
「あー…花奈、さ。」
「ん?」
「もう、止めねーか…、その」
「…何?」
「…別れっか、オレら」
驚いたように花奈の目が見開いて。
次の言葉が花奈の口から出てくるまで、割と長い時間かかったと思う。
「…どうして?」
「だって、オレこんなだし、1年付き合ってもまだお前のこと泣かせちゃうしね?で、お前はお前でオレのこと信用なんてしきれないってわけで…疲れねえ?この関係」
「…ふうん…」
幾分ショックを受けているのは確かなようで。
けど、その時お前がさ、「やだ」とか「別れたくない」とか。
そんな可愛げある台詞を言ってくれたらよ、オレだってきっと踏み切ってなかったと思う。
今更だけど。
少しだけ小さくため息ついた後、目の端に溜まっていた涙を拭って顔をあげる。
その顔は、笑顔…。
っ、何で?!
「疲れさせてゴメンね」
そう笑う花奈がすぐ側にいるのに、どこか遠くで笑っているようで一瞬寒気を感じた。
「…い、いや、あのな」
「そうだね、私きっとこのまま側にいても銀のこと信用しきれなくて又泣いちゃうだろうし…、いいよ、わかった」
そう言った花奈が首元に手をかけて外したのは今年の誕生日にオレが送った小さな石のついたネックレス。
「今までありがと、銀…」
掌に乗っけられたそれが小さいのにズシリと重さを放って。
「ああ…こっちこそ」
気の利いた台詞なんざ何も出てこねえよな、こんな時。
じゃあ、と手を振って先に教室に戻っていくその背中を見送って。
見えなくなってからズルズルと壁にもたれたまんましゃがみこんだ。
…わーい、浮気し放題っ…なんてな。
本命もいねえのに浮気も何もあったもんじゃねえや。
…てか、本当にオレしたことねえし…。
「センパイ、何してんのォ?」
昨日一緒に帰ったパア子ちゃんだっけ?
「…何もしてませんよォォ、パア子ちゃんは何してんの?」
「ヒドイ、パア子じゃないからっ!!センパイ、今日も一緒に帰りません?美味しい甘味処があるんですよォォ」
「…パスー、永久パス使ってイイ?…銀さんセンパイ、しばらく再起不能なもんで、ほっといて下サーーーイ」
センパァイと呼ぶ可愛い声が勿体無いけど、いや、今は全然勿体無いとか思わないね、こりゃ。
ヨロヨロと教室に戻れば、花奈は既に自分の席について隣の毛玉と何か普通に話してんですけどォォォ!!!
…オレから振ったんですよね?確か…。
なのに、ナニコレ?
めっちゃ心が痛いんっすけど…。
失って気付くとかマジであったんですねー…。
ツレェ、ツラすぎる。
机に突っ伏して寝た振りして。
ほんのちょっと泣いてみた、とか中2病すぎて恥ずかしいわ、オレ…。
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