二番目でいい…。[1/5]
「おりょうちゃぁぁぁぁんっ」
…来たっ…。
おりょうちゃんの上客。
来るたびにドンペリばっかガンガン飲んで。
飲んでるにも関わらず酔ってるのか酔ってないのか最初からずっと同じ状態。
大きな声でおりょうさんに抱きついては、たまにどつかれて吐き散らかして。
最初はただ迷惑な人、としか思ってなかった。
なのに。
自然と耳がその声を追い。
目の端で捕らえようと必死になる自分に気付いた。
『お願い、止めて下さい。』
上手にかわして来たつもりだった。
セクハラまがいの酔った客を捌くことなんて何ともなかったのに。
酔った客にトイレに連れてってほしいと懇願されれば、イヤとは言えない。
だから、連れてって外で待ってればいいって思ったのに。
個室へと引きずり込まれた。
必死の抵抗で触れてくる指や唇から逃れようとした。
『いいじゃん、花奈ちゃん。君に幾ら使ったって思ってるの?一回ぐらい、いいだろ?』
『止めて下さい!!大声を出しますよ』
『客に恥をかかせるつもり?だったらさぁ、大人しく言うこと聞いてもらうよ?こんなもん使いたくないんだけど』
ニヤリと笑った男が懐から出したのは、果物ナイフ。
いつの間にそんなもの忍ばせていたのか。
鞘付きのナイフを抜くと、そのギラリとした銀色の光を私の首筋にヒタヒタと当てた。
声も出せなくなった私に満足そうに男の指が伸びてきた。
『何しとるがか』
そんな声がトイレに響き渡る。
そして、入っている個室のドアがドンドンとノックされた。
『入ってます』
男は私の口を手で塞ぎ、そう言って退けた。
『入ってるのは知っとー。中で何をしちょるが?』
ビクンと男の身体が緊張で強張る。
『女子の声がしちょったが、店員でも呼んで来て調べてもろうた方がええかぇ?』
ッチと男は舌打ちをし私を解放した瞬間に思い切り扉を開けて外へと逃げて行った。
私はといえば助かった、という安堵感でどっと疲れ果てて。
トイレの床にへたり込んでしまっていて。
『大丈夫が?』
その声はさっき自分を助けてくれた主、顔を見てようやくそれがおりょうちゃんの客であることを思い出した。
『…ありがとうございます』
これ以上情けない姿を客に見せることはできないので、立ち上がろうと便器に手をかけるけれど。
力が入らない。
すっかり腰が抜けてしまったようだ。
『よっこらせ』
彼は私を抱きかかえて歩き出す。
『今日はもう帰った方がええじゃき』
『はい?』
『あ、この人が具合悪くなってしもうたが。タクシーば呼んでくれろー』
そう言って男性店員に声をかけている。
『あ、あの』
『心配することないぜよ。わしゃ、弱ってる女子に付けこんはどうも好きがやないき』
その夜、坂本さんは私を部屋まで送り届けてくれた後、また店に戻っていつものように閉店まで飲み明かしていたと後から聞いた。
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