raindrop[1/6]
雨、だ。
どんよりとした空を見上げてため息をついた。
雨、だって。
こんな日なのにね。
こんな日だからかな?
まるで泣いているようなその空を見上げれば、ポツンと頬にも雨粒が落ちる。
…仕事、なのかな?
連絡が、ない。
今日、なのに。
今日なんだよ?
…覚えてない、の?
傘なんか持ってこなかった。
だって朝の天気予報は降水確率10パーセントって、あなたが大好きな結野アナが言ってたから。
だから持ってこなかったの。
今日は特別な日だから、早上がりで仕事も終えて。
あなたが可愛いって言ってくれた薄紅色の浴衣で。
似合うって言ってくれた横で結んだポニーテールでね。
…来てくれる、かもって。
待ってた。
来るわけ、ないって本当はわかってたのに…。
涙なのか雨なのか景色が滲む。
『あぁ、もう、うっせーって!!断じて浮気なんかしてねェよ、あんま疑うならホントにしちゃうぞ、コノヤロー!!ホンット、しつけーなァ?銀さんは花奈を信じてるから浮気なんか疑ったことないからね?花奈は銀さんを信じてないからそんなこと言うんだよね?ね?』
薄ら笑いで耳をほじりながら面倒そうにそう言い放った銀ちゃんに。
泣きながら、あたしは言ったから。
『しつこくて悪かったですね、コノヤロー!!だったら、もう二度とヤキモチなんか焼きません、二度と顔見せになんか来ないんだから!!』
だって、だって、そう見えてたよ?
いくら依頼だからって、腕まで組むことないじゃない…、あたしが他の人と腕組んで歩いてるの見てもあなたは平気?
さよならって、飛び出したのはあたし…。
きっと、二度と連絡なんか来ないんだ。
「おいおい、ベシャベシャじゃねェか」
雨はその声に遮られるように、あたしの身体を濡らさなくなった。
見上げれば紺色の番傘を差したよく見知った顔がそこにいて。
「…泣いてんのか?」
驚いたようにあたしを見下ろしている。
「泣いて、ません」
慌てて顔を拭った、まるでこれは全部雨だと告げるように。
「風邪引くぞ」
彼はあたしの手を引いて歩き出した。
「土方さんっ?」
「いいからついて来い」
言葉少ない土方さんに連れられて少し歩いたとこにある小さな珈琲屋へと入る。
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