ずっと、ずっとね…3[1/5]
…寒い、寒いよー、おかーさーん…。
心細さで泣きたくなる。
いくら待っても夜になっても帰ってこない家族。
お父さんもお母さんも残業だっけ?
心細くなって電話したら。
『冷蔵庫にシチュー入ってるのわかった?』
『へ?』
『やだ、朝も言ったわよ?!あんたったら空返事だったから聞いてないだろうとは思ってたけど』
…うん、多分聞き逃しちゃってた。
ふと電話の横にあるカレンダーに目を向けると。
…、そうだった。
『…温泉どうだった?』
『いいお湯だったわよ、ゴメンね、毎年毎年。やっぱり来年は一緒に』
『い、いいよっ!!結婚記念日の旅行ぐらい二人で行ってきなって』
私が高校生になってから、ようやく結婚記念日の旅行に出かけるようになった父と母。
『邪魔してゴメンね、明日お土産忘れないでね』
『ちゃんと戸締りして休むのよ?後ガスの元栓と』
『大丈夫、大丈夫!心配しないで』
風邪引いてること気付かれないように、じゃあねと明るく電話を切ってから。
…なんてこった、と頭を抱えた。
今日から一泊2日で結婚記念日旅行に行くなんてここんとこ毎年の恒例行事で。
すっかりそれも忘れてたなんてダメな娘だな、うん…。
帰ってきたらお祝いにご飯でも作ってあげようかな、ハンバーグくらいしかできないけど。
取り合えずはシチュー温めて。
うん、一口でも食べてそれで風邪薬飲んで汗掻いて熱が下がったら風呂に…入れるだろうか。
シチューを温めてどうにか流し込むように食べて薬も飲んで。
重たい身体を引き摺りパジャマに着替えてから。
自分の部屋から毛布や布団をズルズル引き摺ってきてリビングのソファーに寝転んだ。
TVのリモコンと携帯を側に置いて。
なるべく笑える番組を捜す。
…だって、心細いんだもん。
寒くて眠れないし誰の声もしないのが寂しくて…。
「たつまー…」
何気なく名前呟いたら涙が出てきた。
閉めきれていないカーテンの隙間から覗くのは辰馬の家の明かり。
二階の辰馬の部屋から明かりが漏れていて。
『…そういうこと…じゃったがか』
…違うのに違うって言えなかった、ちゃんと言えば良かった。
あの後辰馬はあの子のところに行ったのかな?
辰馬ってば妙に懐デカイしね、情に流されて受け入れてたりして…。
「…さむっ…自分…」
熱のせいだ、全部。
泣きたいとか寂しいとか逢いたくて逢いたくて、なんて。
全部、風邪のせい!!!
とっとと寝てしまおうとTVも消して布団の中に顔を埋めてギュッと目を閉じる。
多分、それから少しの時間寒気と戦っていた記憶はあるけれど。
きっと眠ってしまったんだろうな。
夜中に何故かふと目覚めた時には辰馬の部屋の窓から見える明かりは消えていた…。
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