陽だまり1[1/4]
カタン、と玄関の開く音がした。
「お帰りなさいませ」
その音に弾かれるようにいつものように玄関へと出向く。
今夜もまた疲れ果てた顔をした彼が私の顔を見て。
「待ってなくていいって言ってんだろ?」
同じ台詞を困ったような顔で言うのは毎晩のこと。
「お腹空いてませんか?今日は」
「悪ィ、帰りにラーメン食ってきちまった。いつも言ってるように夕飯は」
「では、お風呂の支度して参りますね」
最後まで聞かぬ内に逃げるように寝室へ。
これもいつもと変わらない風景。
…迷惑なんですよね、わかってます。
遅くなることも多い、夕飯も食って帰ることが多いから飯のことなんか気にせずに眠くなったら待たずに寝てていい。
いつも、そんな風に優しい言葉をかけてくれるけれど。
結局は、迷惑でしかないのだと思う。
ノリづけされた寝巻きの着物と替えの下着を風呂場へと持って行くと。
中からシャワーを浴びる音が聞こえてくる。
その音が鳴り止まぬ内に、そこを出て夕飯のおかずを冷蔵庫へと片付けて。
ベッドへと入る。
風呂から上がった音、そして冷蔵庫から何かを出して飲んでるらしい音。
そのままベランダを開けて、すぐに閉めるのは。
煙草を吸うため。
ゆっくり二本吸った後は今度は歯を磨き、そして…。
リビングを挟んで寝室の向かいにある和室へと入る音。
…そうよね…。
こっちに来るわけなどないのに。
今夜はもしかして、なんて。
あるわけないって毎晩絶望しているくせに。
今日もまたそれを味わって、昨日と同じように泣く。
あなたに気付かれぬように。
あなたにこれ以上嫌われてしまわないように。
政略結婚なんて…、こんなものなのかもしれない。
きっと永遠に。
私の片想いのようなもの。
初めてあなたに出逢った日に。
恋をしました。
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