溶けるチョコ[2/3]
「あ、そうそう、今回のタッパーさ、空いたら家に届けてくんない?」
「?いいけど、なんで?」
「もう私ここに来れないのよ」
「は?」
「お嫁に行こうと思ってますの」
うふっと笑うと銀時は何か考えているようで。
「ヨメ、って何か新商品?美味しいの?それ」
「…ほォ、ふざけてんの?あんた」
「いや、ふざけてんのは花奈でしょ?!大体、お前を嫁に貰うヤツなんか」
「いんだよ、世の中にゃ奇特な男だって!!」
失礼なヤツだ。
「どこのどいつだ、顔が見てえよ」
「あん?京の老舗旅館のせがれだとさ。まァまだ顔は見ちゃいないけど、年は30歳、土方十四郎似のいい男だって噂だよ。どこで私を見かけたのか見初められたらしくってねえ」
「ダーーーーッ!!!!どこがいい男だってェの?!んな瞳孔かっ開いた男にゃァロクなもんいねェよ?!」
「まだ開いてるかどうかはわかんないでしょうが、それに私好きよ?土方さんみたいな顔」
「全然わかりませーーーーん!!オレだってこう眉毛と目の間を縮めればな、キリッとしてりゃァ、土方くんよりいい男だってえの」
「何張り合ってんのよ、バカみたい」
「はいはい、バカですよーーー、バカだからずっと言えなかったんですけどーーーー?」
そう言うとムクッと起き上がって。
立ち竦む私の前に立ちはだかって。
「行くなよ」
っ、近いっ!!!!
危険を感じて後ずさると、壁に背中が当たった。
それを逃げようのないように、壁に手を当てた銀時がゆっくりと私の顔の前に迫ってくるから。
「ま、待って、って」
「はァ?」
「何かおかしい、私らこんな関係じゃなかったはず」
「ああそうだな」
「だったら」
「だったら、何?今更遅ェとか言うなよ?オレだってずっと言うタイミング逃してたんだからな?!」
そう言って片方の手で私の頬を撫でる。
いや、待てって。
んな色っぽい顔、今までしたことないじゃん?!
「なァ、こっち見ろよ」
目なんか合わせられないって、その顔反則でしょォォォ!!
銀時、正気に戻ってよォォォォ!!!
「今更、だってば、マジで」
ちょっと待ってと、その胸に顔を埋めて自分の顔を隠す。
「銀時、ズルいわ、あんた…」
「ズルイって何?」
「諦めついたからさ、寝た子起こすような真似やめてくんない?」
胸の中、銀時の匂いでいっぱい。
ああ、あんたに抱きしめられるってこんな感じなんだ。
「正直言うとね、…。最初あんたに出逢った頃に一目惚れしたのよ。でもさ、あんたモテるしね、言い寄る女はキレイ所も多いしさ?それに、怪我ばっかすんじゃんか。その度どんだけ心配したかわかるかい?もうさ、そんなのイヤになっちまったから今はもうあんたの親友でいたいのよ」
私の気持ちも汲み取れよ、とため息つくと。
「…だってお前微塵もそんなん」
「バッカだねえ、私だって毎年チョコぐらい用意してきてるよ?毎年この日やクリスマスめがけておかず運んで来てたってえのに、ああ、やだやだ。鈍感な男は」
ほら、と懐から出したチョコを銀時の手に握らせた。
「最後だから、やるよ。食ったら私の事思い出して泣きやがれ、あんたなんか振ってやる」
笑った瞬間に零れる涙。
ああ、こんなつもりじゃなかった。
笑って普段通りにバカなこと言い合って「じゃあね」と別れるつもりだったのに。
今更ズルイよ、私まだあんたのこと…。
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