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そして溢れた[2/6]

『花奈さーんッ!!』

『お給料前じゃありませんの?知りませんよ、私。近藤さんのお金が全部無くなったって』

『カーッ!!オレの心配してくれるんですかァァッ!!やっぱり花奈さんは優しいなァ』

『はいはい、どうぞご勝手に。ドンペリでよろしくて?』

『えっ?!あ…、はい』

急にテンション下げて財布の中身確認してたけど知らないもの。

ある日突然やってきて、そのまま私を指名し出して。

タイプじゃないし金のある上客、とだけ思っているのに。

懲りもせず毎日毎日。

『好きですッ!!!花奈さんッ!!!』

『はい、今日もありがとうございましたっ、またご贔屓に、とは言ってもドンペリぐらい頼める余裕のある時に来て下さいね〜、売り上げ貢献ありがとうです!』

もう来ないでよ、と追い返しても。

三日と開けずやってくる。

…懲りない人、だ。




『やだ、どうして?!』

客の1人と実は出来ていた。

ホスト上がりのチャラい口だけの男。

別れよう、と突然言われたのは平日の昼間。

『何故?』

自分のどこがいけなかったのか、と問うと。

ニヤニヤ笑って私の身体を見回した。

『もうオメエも四捨五入したら三十路だろ。飽きたんだよ、オメエの顔にも身体にも。オレさァ最近19歳の子と知り合っちゃってェ』

『最低ッ』

振り上げて叩こうとした手は誰かに掴まれた、と思った瞬間に。

彼は何故か通りの先まで吹っ飛んでいて。

『あんなヤツ殴ったら、花奈さんの手が痛みますよ』

振り返った先にいたのは近藤さん。

非番だったのだろう、着流し姿で。

『…見てたの?』

『見てた、というか、そこの本屋で立ち読みしていて』

そう言われれば本屋の前で。

行きかう人々は私を憐れそうな顔で見ていて。

恥ずかしくなって俯くと。

『見る目ないですな、あの男ッ!!』

『…』

『こんな素敵な女性、どこ探したって居やしませんよ、全く』

そう言いながら私の手を握りスタスタと歩き出す。

『近藤さん…どこへ』

『カラオケです、フラれた時は思い切り大声で歌うとスッキリしますよー!実はオレも花奈さんに振られる度にそうしてたりして』

…あ、振られてた、って自覚はあったんだ。

『カラオケの後は飲みに行きますよ、近藤さん!!今日はお店お休みしちゃいますからね?付き合って下さいよッ!!!』

『勿論ですッ!!この近藤勲、一晩だって二晩だって花奈さんの気の済むまでお付き合いいたしますからァァァ!!!』

『い、いや、いいからね?今日だけだから、一晩とか無理だからね?!』

『ガッハッハー、花奈さん、遠慮なさらずとも』

とんだ勘違い野郎だけど。

その繋いだ手は温かかった。


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