もう一度だけ[6/7]
目撃情報通りに花奈はファミレスで働いていた。
しかも、笑顔で。
…笑ってることに、安心した、けど。
何か、違うんだ。
『銀ちゃん』ってあの柔らかい笑顔なんかじゃねえ。
まるで顔に貼りつけたような、固い固い笑顔。
花奈が仕事を終えて従業員口から出てくるのを待ち構えた。
「花奈ッ」
そう声をかけたのがオレだとわかって、花奈は。
「見つかっちゃった」
とさっきのような笑顔を浮かべる。
…ああ、そうだ。
あれから一週間、お前がオレに見せていた笑顔は、それだった。
「…元気だった?」
ファミレスの側の公園のブランコ。
並んで腰掛けると花奈からそう口を開く。
「元気じゃねえよッ」
「…そっか」
沈黙が訪れると、やはりまた口を開くのは花奈の方で。
「…ゴメンね、心配かけて。落ち着いたらね、元気だよって手紙出そうと思ってたの。…探させちゃって、ゴメン」
「何で謝んだよッ!!悪ィのはオレだろ?なァ、何でいつもそうやって自分のせいって言うの?オレのこと責めねえの?」
「…責めても、どうしようもないことって…あると思うから」
そう言われて花奈を横目で見て。
その横顔があまりにも平然としているように思えて。
「…戻ってこねえの?」
腹が立った。
「どうして?」
「ッ?!」
「戻らないよ、もう。戻らないから、私のものは全部無くしたの」
「ざけんなっ、何もねえだと?!オレはどうすんだよッ!!!お前の思い出ばっか残されてよォォォ!!毎日毎日毎日、24時間ずっと花奈が離れやしねえ!!どうしてくれんの、コレェェェ!!」
叫ぶオレを驚いたように見て、そして一言。
「…ざけんな」
「え?」
花奈の呟きが空耳、かと思った。
だって、花奈はいつも穏やかで、どんな時もオレを甘やかしてくれて、そんで。
「聞こえなかったのかな?ざけんな、って言ったの」
「…花奈、チャン?!アレ?!」
「私、菩薩様なんかじゃないの。許せないことだって、やっぱりあるの。けどね、銀ちゃんとケンカして銀ちゃんが笑えなくなるのが一番イヤだったから」
盛大に膨れた頬にオレは驚いた。
怒る花奈、膨れる花奈、全部全部オレの知らない、いや、花奈が見せなかった部分。
「…笑ってて?銀ちゃん。私、あなたの笑顔が大好きだった」
立ち上がった花奈の笑顔は貼りついたようなあの笑顔じゃなくって。
昔の、オレの大好きな笑顔で。
だけど、笑いながら泣いてた。
「あのまま、一緒にいたら私ね多分銀ちゃんを責めて責めて責めて、どんなに銀ちゃんが謝ったとしても毎日思い出す度にあなたを責めて…きっと銀ちゃんが笑えなくなってた、と思う。」
「花奈」
「だから、さよならしたの。今はまだ銀ちゃんのこと思い出すと苦しくなるけどさ、きっといつかいい思い出になるって信じてる。んで、いい思い出になったら、その時は」
ブランコからピョンと飛び降りた花奈はオレを見下ろして。
「いつか逢いに行くよ、元気?って」
花奈を見上げても揺るがないその瞳がそっと細く笑って。
「だから、今は当分、さよなら、銀ちゃん」
手を振った花奈が背中を向けるまで。
何も言えなくて。
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