君の側で[4/11]
いつもより遅めについて、食堂でカレーを食べていると向こうから手を振ってやってきたバカに気付いて。
カレーを飲み込むように流し込んで、席を立つ。
「おはよう、昨日は電波ののうが悪かったみたいやき。今日はどうじゃ?花奈ものうは良くなったかえ?」
歩き出した私の横に並びベラベラと勝手に話しかけてくる能天気な男。
「そうじゃ、帰りに参考書を買いに行くの付き合ってくれんか、花奈はそういうの選ぶのうまいやき」
「坂本くん」
足を止めた私に辰馬はハテと首を傾げた。
「坂本くんとは、わしのことかいのう?」
「そう、あのね?何で坂本くんの買い物に私が付き合わなきゃならないの?」
「花奈?」
「友達に頼めばいいじゃない?銀時や晋助やヅラもいるでしょ」
「その中でもそれに一番長けているのが花奈ぜよ」
「…ううん、私はもう友達じゃないから」
「…え?」
「元気でね?坂本くん。留学楽しんできて?もう戻ってこなくていいから」
「ちょ、花奈、その…」
ガシッと肩を掴むその手の力強さに歩き出そうとするのを阻まれる。
「…聞いちょったがか」
声から察すれば驚いた顔で私を見下ろしているようで、私はそれから視線を外していた。
「…餞別とかいらないよね?友達でもないから見送らないよ?」
「ご、誤解ぜよ、花奈には後でちゃんと」
「今更、いい…」
今更の言い訳なんか聞きたくない。
後で言おうとしてた、とかどうせそんな取ってつけたような嘘。
聞いたところで悲しくなるだけ。
「わしは花奈に」
「いいって言ってるの、もう離してくれる?!」
睨み上げて初めて交わした視線は。
あの寂しそうな顔をしていた辰馬で。
その瞳の美しさに、一瞬怯みそうになったけれど。
それでも、ね、このくらい言わせてよ。
「ようやく、清々するよ」
「何がか」
「坂本くんの煩い声聞かなくても済むし、変な笑い声も聞かなくていい、勉強教えたりしなくて済むし、ノートだって自分の分だけ取れば良くなる」
「…っ…、何だかその…おおごと申し訳ないこと、今まで花奈にしちょったんじゃな…、気付かぇいきねまん」
私の肩からそっと手を離して、ポリポリと頭を掻いて困ったような笑顔を浮かべていて。
…傷つけてしまった、それだけはわかった。
「いいえ、こちらこそ、お力になれなくてどうもすいませんでした」
最後まで素直になんてなれなくて、バイバイと走った。
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