大好き。[2/5]
「万事屋さん、って何してるんですか?」
いつも昼間からウチの甘味処でブラブラ団子食べながらくつろぐ銀髪のお兄さんに。
職業は何ですか?と。
疑問に思っていたことをぶつけてみれば。
万事屋、との答えが返ってきた。
何の職業?
「何でも屋だな、人捜し、家探し、ペット捜しに掃除に屋根修理、浮気調査なんかもやってんな」
「へぇ」
面白そうと笑う私に。
「花奈ちゃんなら格安で受け付けてやんよ?いつでも来いよ」
と名刺をくれた、それが銀ちゃんとまともに話した初めてのこと。
それまでは店のお客さんで、ただの店員。
ある日、ベビーシッターで預かった泣いている赤ちゃんを背負った銀ちゃんが団子食べながら泣き止まぬ赤ちゃんにため息をついていた。
「銀ちゃんの赤ちゃん?」
そうからかえば、
「ちっがーう!!オレの赤ちゃんだったら、もちっと賢そうで可愛くて愛想いい子でしょ、髪の毛ストレートで」
ムキになって口を尖らす、子供みたい。
「全部それ銀ちゃんの願望じゃん」
そう笑ってやれば、銀ちゃんはウルセと私のおでこを弾く。
ただの、からちょっと上に昇進した店員。
この辺りから少しずつ距離は縮まったんだっけ。
だからね、ある日しばらく銀ちゃんが現れなかった時はソワソワして毎日来るのを待っていて。
そうしたら、傷だらけで身体中怪我だらけで現れた。
気まずそうに、笑いながら。
その顔見たら、何も言えなくなっちゃって。
言葉が何も出てこなくて。
メニュー表を黙って手渡しながら、涙がボロボロと零れちゃったんだ。
「バッ、ちょ、花奈!!」
オロオロしながら銀さんは私を抱き寄せて。
「何、泣いてんだよ」
と一生懸命私の涙を拭う。
「…怪我、いっぱいして…銀ちゃん、何で…?ケンカで死んじゃったら、もう会えないじゃない…」
しゃくり上げながらそう言うと。
「死ぬわけねーよ、オレだって花奈に会えなくなんのはイヤだしよ」
優しく優しく私の髪の毛を温かな手で梳いてくれる。
好き、って自覚した。
銀ちゃんはかぶき町で、皆と仲良くて。
きっと私もその内の1人で、銀ちゃんにとっては気の合う仲間の1人。
そんなのわかってたから。
自分の気持ち伝えよう、なんて思わなかった。
伝えて、気まずくなって銀ちゃんに避けられるよりは仲の良い店員でいた方がマシだって。
そう思ってたから。
いつも優しい銀ちゃんに時たまこうしてふざけて抱きしめられれば、もうそれで満足だったの。
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