コトノハ1周年企画御礼リク[20/21]
並んで歩くと、私の背はちょうど総ちゃんの肩ぐらい。
昔は同じぐらいだったのにな。
手だって華奢だったはずなのに、いつのまにか男の人のような筋張った手になっていて。
腕や首もどんどん男の人、みたいで。
「どうしたんでィ?」
観察してたのを気付かれてしまって慌てて視線を泳がしたけれど。
「今日の花奈はどっかおかしいでさァ」
無表情で首を傾げる総ちゃんに何も言えなくなる。
「…総ちゃん…」
そっと手を伸ばすと、いつものように握り返してくれる。
「何時の電車だ?」
「ん、と16時半…」
そういうと自分の時計確認して。
「後二時間じゃ、どこもしけこめねェや」
チッと舌打してるけど。
「っもう、総ちゃんってば」
冗談ばかり、とむくれると総ちゃんの足が止まる。
「お前ってほんと馬鹿でさァ」
呆れたようにそう呟くと、足を速める総ちゃんに不安になる。
「総ちゃん?」
「あん?」
「どこ行くの?」
「さァねェ」
辿り着いたのは何だか如何わしいホテルの前で。
「行きやすぜ?」
その入り口の前で総ちゃんが私を振り返る。
「っ、や」
慌てて頭を振る私の手を総ちゃんはそっと離してくれたけれど。
「…オレァ、いつだって花奈に対してこんな気持ちになってる。…お前はどうなんでィ?」
そう聞かれて…応えられなくて。
そんな私を見限ったかのように総ちゃんの手は離れて。
そして立ち尽くす私の横を通り過ぎて歩いて行ってしまう。
待って、ってその声が出なかった。
だって…まだ私は総ちゃんへの気持ちを自覚したばかりで…だから…。
武州からのお使いで、こうして江戸にある屯所を訪れるようになったのはこの春先から。
月に1、2度来る度に幼馴染だった総ちゃんに会って。
…好きだった、と言われて付き合いだしたのは、1ヶ月ほど前。
まだ始まったばかり、なのに。
こんなんで、もう壊れちゃう、の…?
「…総…ちゃん…」
あのね、ちゃんと言えてないけれど私もずっと、ね。
「総ちゃ…」
戻ってきて…。
大好きなのに。
「総…」
「んなとこで泣いてたら目立つだろィ」
グイッと引かれた腕。
引いてくれた彼は何故だか少し顔が紅くて。
「んな、連呼しなくても聞こえてやす」
「んっ…」
空いている手で涙を拭きながら、駅までの道を総ちゃんに連れられて歩く。
「ちゃんと、オレのこと男として意識してやすかィ?」
「えっ…?」
「オレァ、お前に再会してからずっと…。女としてしか見てやせんから」
急にそんなこと言われてカァァァッと頭に血が昇ってしまったかのように。
「すげェや、トマトみてェ」
ヘラッと笑って私の頬に触れる指が。
ゴツゴツしてる、から。
「…私だって、そうだもん…」
「あ?」
「総ちゃんに会ったら、急に大人になってて。私の知ってる総ちゃんじゃなくって…だから、その急にとか本当にもうビックリしちゃっただけで、ね?…ちゃんといつかは、って思ってるけど…まだちょっと早っ、きゃっ」
言い終わる前に総ちゃんの腕の中。
どうしよう、ドキドキが伝わっちゃう。
けれど、…私と同じくらいに。
ドキドキが聞こえてくる。
「…オレだけじゃねェんですかィ?」
「総ちゃん?」
「…好きだって気持ちはオレだけなのかと思ってた」
「ち、違うよっ!!私なんて、総ちゃんが武州に居た時からずっと」
口走ってしまったことに気付いて慌てて口を閉ざしたけれど。
「オレだってそうでィ」
力強く抱きしめてくれる人の背中を。
そっと抱きしめ返す。
…離れたくない、ってこんな気持ちなんだよね。
「次はいつ来るんでィ?」
「…わかんない、けど」
「ん?」
「用事がなくても、会いに来ていい?総ちゃんに、会いたいっ」
一瞬驚いたようにビクンとして、それから。
「…だから我慢が利かなくなりそうなんでィ」
困ったような声が聞こえてくる。
我慢の意味を知るのはもうちょっと後。
大事に大事に思ってくれたから。
湊様御題
沖田
お前ってほんと馬鹿でさァ
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