コトノハ1周年企画御礼リク[18/21]
縁側から覗く庭先にいる人影が花奈ちゃんと若い隊士だということに気付き。
そっと身を潜ませる。
聞こえてきたのは男の声。
「そっか」
その声は何だか暗く。
「すいません」
謝る花奈ちゃんの声もまた辛そうだった。
何が、あったのか、その疑問は次にすぐ解明される。
「うん、わかったよ。花奈ちゃん、好きな人とうまくいくといいね」
好きな人?!
「…ありがとう…ございます」
申し訳無さそうにお礼を言って。
先に隊士がその場を後にした。
そっと物陰からその様子を見ていると、花奈ちゃんは彼を見送ってから。
はぁぁと大きくため息ついて。
その場に屈みこんでしまう。
…、どうしたらいい?
どうしたらいいんだ?!
無い知恵を絞ってもわからないから。
「どうしたの?具合悪い?」
なんて偶然通りかかりました的に彼女の元へ。
「いえっ、何でもないんです!すいません、すぐに仕事に戻ります!!」
慌てて洗濯籠を持ち立ち上がろうとして。
ヨロリとした花奈ちゃんを支えると。
その目に浮かんでいるのは涙。
「何でもないって」
じゃあ、これは何?と指でその目を拭いてみせると。
花奈ちゃんは眉尻を垂れて俯いてしまう。
「…局長、さん」
「ん?」
「…私、…辞めてもいいでしょうか?」
「へ?辞める?え?まさか、女中を辞めたいとか、そんなんじゃ」
「…ええ」
「エエエエエエ?!ちょ、待って?何で?!何か、その人付き合い的な何か?それとも」
それとも、さっきのようなことがあるから、とか…?
「…好きな人がいるんです、ここに。…だけど、思ってもその人には伝わらなくて、それが苦しいから…なんて理由じゃやっぱりダメですかね?」
泣き笑いする花奈ちゃんに心が痛む。
誰だよ、気付かないバカは!!
こんなに花奈ちゃんのこと泣かせやがって!!
「局長さんは好きな方はいらっしゃいますか?」
「…いるよ」
目の前にね。
「その方に好きと伝えたことは」
「ないよ、…これから先も」
さっきの断られた隊士の顔が浮かぶ。
そして断った後の花奈ちゃんの辛そうな顔も。
オレだってあんな風になるってわかってるのに、言えるわけがない。
まして局長であるオレにそんなこと言われたら。
気まずさで辞めてしまうだろうから。
「っ、花奈ちゃん…もし良ければその好きな人が誰か教えてくんない?」
「…え?」
「オレに協力できるならいくらでもするし、そしたら花奈ちゃん辞めずに済むでしょ?…花奈ちゃんの笑顔が無くなるのは寂しいもんな」
ハハハッと笑って見せると花奈ちゃんはポカンとオレを見上げて。
「…局長さんも、寂しがってくれるんですか?」
諦めに似たような表情で笑う。
「当たり前じゃないか」
当たり前だよ、君がいないなんて。
いてくれるだけでいい。
そりゃ、嫉妬するよ。
だって君は誰にでも優しくて明るくて、だからモテていて。
それでも、他の誰のものでもいい。
…ここで、笑っててくれるなら。
「局長さん…、私…告白してダメだったら…辞めさせてもらえます?」
「っえ?」
「局長さんが寂しいって言ってくれるから、…何だか自信持ってもいいかなって」
…アレ…?
オレ、後押ししちゃった…?
「あ、ああ、そう?ハハハ、うん、花奈ちゃんなら大丈夫!!オレが太鼓判を」
その瞬間に。
「好きなんです」
柔らかなものがオレの腕の中に飛び込んでくる。
「好きなんです、局長さんが。好きな人がいてもいいです、二番目でもいいんです、諦めがつかないんです」
…花奈ちゃん…?
夢…じゃなくて?
「好きなんです…」
泣き出してしまう花奈ちゃん。
震えるその身体をギュッと抱きしめる。
「俺だけを見てて」
そう呟くと、不安気な顔が腕の中でそっとオレを見上げている。
「…同じだから、オレも。君が好きだ」
泣きながら笑い合って。
渉様御題
近藤
俺だけを見てて
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