コトノハ1周年企画御礼リク[13/21]
「晋助…」
やっぱりここにいた。
晋助が一人になりたい時は決まってここにいる。
雰囲気が村の外れにあった沼に似てるからだろうか?
今日、晋助の部隊が戻ってきた。
数人欠けた状態で。
ひどく塞ぎこんだような顔をした晋助が。
部隊を一先ず休ませた後で、フラリと姿を消した。
「ほっとけよ」
と銀時は鼻くそほじってたけれど。
ほっとけない、って思う。
「晋助、ご飯食べてないでしょ?」
竹皮に包んだ二個の握り飯を手渡すと。
中身を覗いて、そして。
「いらねェ」
とつき返して来る。
「お前ら、ずいぶんいいもん食ってたんだな」
なんて皮肉交じりに笑いながら。
「一昨日、近くの村の人が届けてくれたんだ。それまでは皆芋ばっか食ってたんだよ?今頃鬼兵隊の皆にも配られてるはずだから、晋助も」
「芋でも食えるだけマシじゃねェかッ、アイツらはもう3日も飲まず食わずで」
込み上げる怒りを抑えるかのように晋助の拳は震えていた。
「…何人、減ったの?」
「…五人、一人は今朝、脱水症状がひどくなってな」
「そう…」
「ならさ、その人が食えなかった分食ってやりなよ、弔うつもりでさ。あんた大将なんでしょ、鬼兵隊の」
ほら、ともう一度差し出した握り飯を。
暫くずっと見ていて、そして。
手を伸ばして一口、二口…、そしてかぶりつくようにとガツガツと食べて二個目もすぐに無くなってしまった。
喉に詰まらせないようにと渡した水筒を奪い取ると。
それすらも飲み干してから、ようやく倒れこむようにその場に大の字になる。
まるで太陽が眩しいから、と言わんばかりに右手で手を覆って。
傍らに座り、晋助の頭をそっと撫でていたけれど。
…邪魔かもしれないな、私。
「…さて、と先戻るね」
きっと一人で泣きたいのかもしれない、と気を使ったのに。
「チッ、あいつのとこにゃ行かせねえ…」
空いている一方の手が髪を撫でていた私の手を握る、そして。
「…ここに、いろ」
風の音に掻き消されてしまいそうな小さな声。
「晋助…?」
「…テメエはいつもあいつと一緒なんだろ。…オレが帰ってきた時ぐれェ…、側にいろよ」
あいつ、って…銀時のこと?
「兄妹みたいなもんだよ、銀時とは」
「…そうかよ」
「晋助とは…違う」
「…違ェのか?」
「うん…」
風の音だけが聞こえる。
時折その風に誘われて沼に落ちる葉が水面に波紋を広げるくらいで。
まるで時が止まってしまったかのように。
…何か、言ってほしいのに。
「晋助」
「ん?」
「死なないでよね?…ちゃんと、こうして時折でいいから帰ってきてよ」
「…そっくりそのままテメエに返す。死ぬな、花奈」
ガバリと起き上がって。
私に向き合う目は、いつも私をからかうような目ではなくて。
…幼馴染、でもなくて。
真剣な一人の大人の…。
「死なないよ、だって。死んだら晋助に会えなくなるし」
誤魔化すように笑った瞬間に。
抱きすくめられた。
「あったけェな、テメエはいつも」
私の肩に顔を乗せて呟くその一言はきっと。
今朝方死んだ仲間への思いを馳せてか。
「晋助もあったかいよ」
そっと抱きしめ返す。
「…死んだら終ェだな、…あの銀髪にお前かっ攫われちまう」
「だからぁ、銀時は兄貴みたいなもんで」
「オレとはどう違ェんだ?」
ああ、ずっとずっと知ってるくせに意地悪だ。
「言えよ、花奈」
その低い声で耳元で囁くから身体がビクンと強張っちゃって。
悔しいんだもの。
「…銀時が死んだら丁寧に成仏できるように弔うけど、晋助が死んだら墓掘り返して呪うから!!」
「ハ?!何しやがろうってんだ、テメエ」
「生き返りの術とか、魔術とかかけちゃうんだからね?会えなくなっちゃうなんてイヤなんだからっ!!」
それぐらい、銀時と晋助は違う存在なんだってこと。
ちゃんと、わかっててよ。
沈黙を破って聞こえた言葉は。
「…上等だ、コノヤロー」
フッと笑った声が聞こえて。
「オレを生かしとけんのはテメエしかいねえ」
突如降り注ぐ嵐のような口付けに眩暈がした。
頬を濡らすのは、きっと天気雨なんだよね?
…あなたがいてくれるから、だから生きたい。
ねえ、晋助。
豆子様御題
高杉
チッ、あいつのとこには行かせねえ…
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