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コトノハ1周年企画御礼リク[9/21]

別れたはずの男が訪ねて来た。

鳴り続けるけたたましいピンポーンという音に。

インターホンには、画面いっぱいにもじゃもじゃがあった。

「…どちらさまでしょうか?」

「わしじゃ」

「わしさんというお方に知り合いはおりません」

「わしじゃ、辰馬ぜよ!!花奈、開けとおせっ!!」

「さぁ、どちらの辰馬さんでしょうか?もしかして、二ヶ月前にお別れした坂本辰馬さんでしょうか?」

「わしゃ、別れとらんぜよ?」

「ああ、ストーカーさんがよく言う台詞ですね?別れたのに別れてない、話がしたい、と乗り込んできたパターンでしょ?あまりしつこいと警察呼びますけど」

「おまん、何を言うちょるがか?!わしゃ、ストーカーなんぞしとりゃぁ」

言いかけている途中で終了ボタンを押せば画面は真っ暗になる。

…何しに来た、あの男。


最初は取引先の社長と取引先の会社の受付嬢という関係だった。

だけど何度か顔を合わせるうちに、あの人は私を口説いてきた。

調子のいい男、としか見てなかったのに。

何度断ってもめげずに現れては私を誘う姿に絆された。

…最高の口説き文句。

『おまんは、わしのために生まれてきたんじゃろう』

艶っぽいその瞳に堕ちてしまった。

堕ちたら最後、口説くのを止めたもじゃもじゃは。

時折私の部屋を訪れては、そういう時だけ甘い言葉を囁き、そしてスッキリした顔でまた宇宙へと帰って行く。

その私の部屋を訪れるときだって、いつもお酒の匂いをさせてくる。

それがキャバクラ帰りだからと気付いたのは付き合って二ヶ月くらいの頃。

どこの店かは知らないけれど頬にベッタリとキスの後をつけてバカ面こいてやってきた。

ブチッとキレて辰馬の頭をバシッと殴りつけて泣き出した私を抱きしめて。

『もう二度と行きやせーん』

とオロオロしていた彼は、その後も何度も隠れてキャバクラへ行き。

調べたところによると、数ある行きつけの中の一軒の店ではかなり昔から一人の女の子に入れ込んでいるようらしく…。

『もう、いいや』

何十回目かのケンカの後でそう呟いた。

『もう、いい?』

首を傾げた辰馬に、いつか渡してやろうと鞄に纏めていた彼の私物と彼から貰ったものを。

『はい、どうぞ』

ニッコリと渡す。

『これは何かのう?』

はて?と中を開けようとするのを止めて。

『お土産よ、帰ってから見て、それじゃ』

ドアを開けて早く出て行けとばかりに追い出した。

…なんとも困った顔をして何度も振り返って帰っていく姿を見送ってから。

いっぱい、泣いた。

あんなんでも好きだったから。

目を輝かせて宇宙のことを語る姿や、私を抱きしめて『好きやか』と何度もキスをしてくれるとこや、…ああ、割とたくさん。

いや、相当の思い出が胸をしめつけてきて。

何で私のこと口説いたの?好きな人がいるんなら、と。

何度も何度も悪態つきながらその日は朝まで泣いてたっけな…。

中身を確認したはずなのに、辰馬から連絡が来ることはそれきりなかった。

ということは私が切り出した別れを彼は受け止めた、と考えてもいいだろう。

そうして自分の中では二ヶ月前に終わったことだったのに。

ピンポーンピンポーンピンポーン、再びけたたましく鳴る音に苛立ってインターホンを見ると。

やはりもじゃもじゃな頭に眉尻下げてすっかりしょげ返った辰馬が映っていて。

「…今更何の用ですか?」

ハァッとため息をつくと。

機関銃のように土佐訛り全開で弁明が始まる。

「あれからトイレに落として携帯が水没したぜよ!!おまんに電話しようとしてもかけれんかったが。早くここに来ておまんに会いたかったちゅうに、艦の中でいざこざが起こってしもうてわしも席を外すことができのうて…、遅くなってすまんかったが」

「…まぁ、それはそれは大変でしたね、お疲れ様でした。地球で新しい携帯買って帰られたらどうです?一杯飲みに行くついでに」

どんな理由があろうとも、もう信じてなんてあげない。

「わしの好きなおなごは、おまんがどう思おうとおまん一人ぜよ?きっと、わしがおまんのために生まれたのかもしれんのう」

はいはい、全くまたそんな調子いいことを。

相手にされてないとわかったのか、今度は顔を目一杯インターホンに近づけて、そして。

「わしゃー寂しがりの狼じゃき、ほっとくと死んでしまうぜよ」

そう言いながら何と。

泣き出した、ではないか。

その辰馬の後ろにはインターホンを使いたいらしい他の部屋への宅配便のお兄さんがいたり、やはりお客さんらしい人も待っていたりで。

「…ちょ、邪魔になるから部屋来てくんない?」

大男を泣かせているのを知られるのが恥ずかしくて辰馬にそう促せば。

「花奈ーーーー!!!」

ニカッと開いた口に嘘泣きだったということを思い知る。

騙された、だけど。

辰馬が到着するまでの間、身だしなみを整えたりとソワソワしている自分がいるのは何故だろうか。

…本当はね。

待ってたんだから。







ペリー来航様御題
坂本
わしゃー寂しがりの狼じゃき、ほっとくと死んでしまうぜよ


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