コトノハ1周年企画御礼リク[8/21]
「いらっしゃいませ〜」
メニューを持ち出迎えた先にいたのは、2週間ぶりに顔を見せた人。
今まで何してたの?とか。
色々言いたいことはあれど、こちらへどうぞ、といつものように窓際の席へと銀ちゃんを案内する。
少し振り返って見ると、銀ちゃんの歩き方が変だということがわかる。
また、だ。
隠してるけど、わかるもの。
「苺パフェ一つ〜、超大盛で」
「…ケンカしたでしょ?」
「っ、してねェし」
そう言って誤魔化すようにニヘラと笑った銀ちゃんの脇腹をトンと人差し指でつつくと。
「イダッ!!!」
海老のように背中を丸める。
「折れてるの?」
「折れちゃいねェよ、打ち身だ、打ち身」
「ほら、やっぱ怪我してる。ケンカしたんでしょ?」
「ケンカじゃねェって」
うるさい、うるさいと手でシッシと追い払われる。
いいけどね?
もういいよ、知ったこっちゃないよ、銀ちゃんの身体なんて。
フンッと不貞腐れてみせたけど。
けど、ね。
チラッと見た横顔が何を考えているか。
それすら読めなくて不安になる。
この人はいつか私の前から消えていなくなるんじゃないだろうか、って。
何故だか漠然とした不安が過ぎる。
お登勢さんが言っていた。
アイツは、いきなりプラッと現れたんだからねえ。
猫みたいに気ままな性分かもしんないねえ、なんて。
そう聞いてしまったら、何とかしてここにいてもらいたい、って。
バカだよな、私も大概。
ねえ、銀ちゃんにとって私はただの友達かもしれないよ?
けど、私にとっての銀ちゃんは…、大事な大事な人だから。
私の気持ちに応えて欲しい、なんてバカなことは願わない。
それよりも、お願いだから。
こんな風に10日以上も顔見せないで不安にさせるような真似は止めてよ。
久々に見たら怪我してるとか、一体私の知らない場所で銀ちゃんは何をしてるの?
怪我で済む内はいい、もしかして、それが…。
そんな風に考えると、もう苦しくなってきて。
「お待たせいたしました」
銀ちゃんの注文した苺パフェをそっとそこに置いた。
「っ…、何でだよ?」
すぐに厨房へと戻ろうとする私の手を引きとめられて。
「え?」
銀ちゃんを見下ろすと、はぁぁっと大きいため息。
「…何で、泣くの?」
そう言われて初めて銀ちゃんを見て泣いている自分に気付いて、慌てて涙を擦った。
「泣いてませーんっ!!これは青春の汗ってヤツですから」
「ほォ?青春の汗ってのは、どんな時に出てくるってェの?」
「…サァ?例えばアレですよね、心配すんだけ無駄だから、って軽くあしらわれた時とか?」
嫌味交じりでテヘッと首を傾げて笑うと。
「花奈を…泣かせたいわけじゃねぇんだ」
困った顔の銀ちゃんが私の手を握りしめたままで覗き込んでくる。
「っ、別にィ?!銀ちゃんに泣かされたわけじゃないもんねーだ」
ああ、可愛くない、可愛くない。
だけど、あんな風に優しく見つめられたら私また泣き出しちゃうもの。
銀ちゃんの手を無理に解いて仕事場へと戻り、また違うお客さんの下へと料理を運ぶ。
そうこうしている内に時間は経っていて、銀ちゃんがいた場所にはもう他の人が座ってた。
…久々に会えたのにな、とため息は出たけれど。
良かった、会えて、また会えて、…それだけでよしとしよう。
だからね、まさか。
「お疲れ〜」
なんて従業員出口でジャンプ立ち読みしながら銀ちゃんが待っててくれた時にはただただ驚いた。
「…てか、ね。怪我してるんなら、家帰って寝たら?」
「あー、何か可愛くないね?今日の花奈は。いいけどね?あんまそういうことばっか言ってたら銀さん泣くよ?花奈に冷たくされたってかぶき町中で言いふらすよ?」
「何その痛くも痒くもない嫌がらせ」
思わず噴出すと、銀ちゃんも笑う。
「やっぱ、いいじゃん」
「ん?」
「笑ってろよ、そうやって」
「はい?!」
「オレがここに来るのはァ、うまい苺パフェと花奈の笑顔があっからだし」
「、銀ちゃん…?」
それって、どういう意味?と問いかける前に。
「送ってく」
と歩き出す背中を必死に追いかける。
「銀ちゃんってば、待って」
声をかけた瞬間に振り向くと同時に、ホラと伸びてきた手を。
…一瞬だけ考えて、そっと握り締める。
ドキドキが伝わってしまいそうで、怖いから俯いたままで。
手を繋ぎ並んで歩き出す。
「泣くと不細工だからねェ、花奈は」
「うっさいよ」
気付かれぬように空いてる手で涙を拭った。
みこと様御題
銀時
泣かせたいわけじゃねぇんだ
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