コトノハ1周年企画御礼リク[6/21]
「わっ、嘘?」
すれ違うほんの少し前から、懐かしい匂いがして。
すれ違った瞬間に、見えたその横顔に思わず彼の腕を引きとめた。
「ッチ」
「やっぱ、高杉!!」
嬉しくて彼を見上げて微笑むと。
「…オイ、声がデケーだろが」
眉間に皺を寄せた彼は私の手を引いて、側にあった茶屋の影へと回りこむ。
通りから外れた茶屋の影ならば人目につくこともない、なるほど。
「ゴメン、ゴメン、何やら追われてる身だもんね。あっちこっちにあんたの指名手配写真貼ってるんだもん、笑えるよね」
「笑えねェッ!!」
「隣にヅラの写真とか、超面白いよね、さすが幼馴染」
二人並んだ指名手配写真を思い出してヘラッと笑った瞬間に。
「…お前、何で江戸に?」
「あー、半年ほど前にね出てきた」
「親の面倒見るって国に帰ってたんじゃ」
「昨年、揃って往生しまして」
「婚約者もいるとか言ってやしなかったか」
「…、そだっけ?」
「ふざけんなッ、だから」
高杉が何か言い掛けて、また舌打をした。
「うん、いたな、確かいた。いたんだけどさ、帰ったら別の女と結婚してたとか笑えるでしょ」
「…振られたのか?」
「っ、振られてなんかないね?!どうせ親同士の決めた結婚だったし?全然悔しくなんか…、いや、私よりいい女だったし…、うん、仕方ない」
「落ち込んでんじゃねェかッ!!!」
クックックとバカにしたように笑う高杉に釣られて、私も笑い出す。
いいさ、もう過去のことだし。
「…だから、あん時オレにしときゃ」
「だから、高杉のそういうとこ信用できないんだって。しょっちゅう、坂本と銀時と遊郭やら出かけてる男に口説かれたとしても信用なんかできるかってェの」
「ッ?!…何だ、そりゃ…、まァ否定はしねェが…ヤツらと一緒にされんのは我慢できねェな、クソ」
はぁぁとため息ついた高杉を横目で見て。
…知ってるよ、本当は。
ちゃんと、私のこと好きでいてくれたことも。
それに坂本や銀時と違って、高杉は朝までただ酒飲んでただけってことも。
銀時が教えてくれた。
ちゃんと、考えてやれ、って。
アイツは本気だぞ、って。
…好きだったよ、私だって。
けど、どうしようもないじゃん。
親は年取ってたし、私しか娘はいなかったんだし。
…あんたにそれ背負わすのは、何かイヤだったんだもの。
『…一緒に来ねェか?』
『は?』
もうじき終わるだろう、戦争。
敗戦を目前にした眠れぬ夜のこと。
高杉に連れられて歩いた月夜。
『聞こえねえのか?一緒に来い、と』
『まぁた、冗談ばっか。私が一緒に行ったとこで、何もできないよ?あんたに比べれば剣の腕だって落ちるし、飯だって炊けやしない。役になんか立ちゃしないよ』
『ッチ、オレァ、そんな意味でなんざ』
『はいはい、前から言ってる様にさ、私は国に帰るよ、親も婚約者も私の帰り首長くして待ってるしさ。…行けないよ、高杉』
クルリと振り返った時見えたのは高杉が去っていく背中。
うん、これでいい。
これで良かったんだ、って。
涙が落ちないように月を見上げた。
「良かったァ、高杉に逢えて。元気そうで何より」
よいしょ、と立ち上がると。
「お前は変わらねえな、あの頃と何も」
と苦笑して高杉も立ち上がる。
「今度はさ、皆で同窓会とかどうよ?」
「しねェッ」
「残念っ、それじゃまた、どこかで」
握手、と伸ばした手をじっと見ていた高杉が。
「…鈍っちまってんな、手」
「そりゃ、そうだ。剣なんかとっくに捨てたわ」
「飯は炊けるのか?」
「まァね、そんぐらいは当たり前」
「…飯炊きなら雇ってやんよッ」
「へ?」
「…募る話もあんだよ、つべこべ言わずについてこい」
強引に引かれて歩き出した。
ああ、あの頃だってこうして引き摺って行ってくれたら良かったのに。
『…達者でな』
なんて言うから、私だってついていけるはずもなかったけれど。
今なら、わかる、あなたが誰よりも素直じゃないってこと。
「高杉も変わらないね」
クスクスと笑うと引かれた手を更に強く握られて。
では、あの時からもう一度やり直してみますかね?
ringo様御題
高杉
お前は変わらねえな
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