コトノハ1周年企画御礼リク[4/21]
「やいっ!!」
やい?!
そう声を発した主が花奈であるだなんて俄かには信じがたかった。
だが、この真選組の男所帯の中で。
他に女の声を出す者などおらず。
一同は花奈をいぶかしげに見つめていると。
「やい!!土方コノヤロー」
目の据わった花奈が方膝を立てて、鬼の副長に向かってニヘラと笑ったのである。
シーンと静まり返る大広間。
酔っ払っていた近藤ですら、一気に酒が冷めていくのを感じた。
「やいっ、何とか言え、土方十四郎!!!」
走ってきた近藤が花奈の口を塞ごうとすると。
「離せ、ゴリラァァァ!!ゴリラ菌が移るだろォォォがァァァァ!!」
と近藤の顔面へとヘッドバンキング。
グフォォォォと鼻血を垂らしながら倒れていく近藤。
「どうしたんでィ、一体何が」
珍しく仲裁に入ろうとした沖田にも。
「黙れ、このクソ豚野郎!!!」
普段メス豚と呼ばれている腹いせなのか、沖田を背負い投げてしまう始末。
暴れないように多勢で押さえつけようとすると。
「セクハラじゃねえかァァァ!!!離せ、この痴漢どもっ!!!」
そんな風に言われては手も足も出せずで。
「やい、花奈。テメエが腹たってんのがオレだってんなら話し合おうじゃねえか、コノヤロー」
「おう、上等だ、このマヨヤロー!!」
マヨヤローにヒクッと頬を引きつらせながら、花奈の襟首を持ち上げて引き摺るように歩き出す。
「離せ、一人で歩けるやいっ!!!」
2人の背中を見送る隊士らはため息をつく。
酒、飲むなとあれほど言ったのに。
普段は大人しい女隊士である花奈は。
監察兼、局長や副長の補佐のような(つまりは書類片付け係り)をしていて。
実に気の利く控えめな女であるのだが。
酒に弱く、毎度飲む度に飲まれてしまい悪態をつく始末。
前回は局長を正座させてそれに重石を載せ、ストーカー行為とはという講義を朝までしていたというのだから。
大虎である。
「で、テメエは何でオレに腹立ててるってんだ?」
「…身に覚えがねえですかい?ええっ?」
ズイッと顔を寄せてくる花奈に土方はデコピンを食らわせる。
アダダダダと蹲った花奈の頭をそっと撫でた。
「…ズルイですよ、土方さんは」
少し正気に返ってきたのか先ほどよりの暴言ではなく、いつもの花奈の話し方に変わって来ている。
「何がだよ」
「全部です、全部っ、その顔も頭も匂いも全部全部全部」
「ハァ?!」
「だから、もう私側にいたくないんれすよ、あなたの側に。」
れす、…あ、やっぱまだ酔ってるのか。
「…補佐を辞めてえってのか?」
「そうれす!!!!側にいなきゃ、きっと優しくしてくれることもないれしょ?どれだけ罪だか知ってます?土方さんの優しさは毒みたいなもんれすよ、ええ!!その毒に侵されて私はもう、もう、もう」
ウワァァァァンと泣き出した花奈に土方は首を傾げながら、その背中を撫でてやるしかできないってのに。
「触らないで優しくしないでっ、ほっといてェェェ!!」
とまた泣き出す始末。
「ニコチン野郎だし、マヨ野郎だし、眼孔開きっぱなしだし」
「…上等だ、コラッ」
「なのに、かっこいいとか優しいとかギャップありすぎて、悔しいっ!!趣味じゃないのに、全然趣味じゃないのにィィィ」
ガバッと顔を上げた花奈が土方の頬を両手で挟んで。
「…好きすぎて苦しいのれす」
チュッと押し付けられた唇。
そして、そのまま土方の腕の中に持たれる様に眠り始めてしまう花奈に。
「…嘘だろ、オイ」
顔を赤くしながら、花奈を抱きかかえて歩き出す。
「…だから、最近のオメエはオレに頼ろうとせずに」
離れて仕事して何でも自分で片付けて。
その態度にこっちがどれだけヤキモキしてたか、知らねえのはお前だけだし!!
趣味じゃねえとか散々言いやがって、クソ。
オレだってオメエのことなんざ趣味なんかじゃねえよ、けどな。
呆れるほどに無防備な寝顔に浮かぶ涙をふき取って、花奈の部屋へと運び入れた。
「もっと頼れよ…、つぅか人の返事も聞きもしないで寝やがって」
ピンと弾いた鼻を花奈はゴシゴシと擦っている。
「…好きだ」
そう呟くと、ふにゃりと眠ったままで笑顔を浮かべた花奈に。
仕返しのキスを送る。
つばさ様御題
土方
もっと頼れよ
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